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あなたのとりこ 421 [あなたのとりこ 15 創作]

「この前帰ったのは、ええと、二年前の正月だったかな」
 頑治さんは徐に右前方斜め上に視線を馳せるのでありました。
「そう云えば頑ちゃんの家族は、頑ちゃんに時々帰ってこいなんて仰らないの?」
「云わないなあ。ウチは兄弟が多くて、親父も疾うに他界しているからねえ」
 頑治さんは男ばかりの四人兄弟でありました。「一番上の兄貴がもう結婚していてお袋や他の兄弟と同居しているし、まあ、その嫁さんの手前、俺がそこに気儘に帰って当然のような顔してのほほんと滞在するのも、何となく気が引けるからなあ。別にその嫁さんと折り合いが悪いと云う訳じゃないんだけど、でもまあ、何となく遠慮があってさ」
「お兄さんのお嫁さんだから、頑ちゃんやあたしと同年齢くらい?」
 夕美さんは頑治さんの兄嫁に対して多少の関心があるみたいでありました。
 考えて見れば頑治さんの家庭の事を夕美さんに話したのはこれ迄に殆ど無かったのでありました。別に隠そうと云う気は無かったのでありましたが、かと云って積極的に話す気も無いのでありました。会話の流れから断片的に少しくらい話した事もあるし、夕美さんも頑治さんの家族構成くらいは、中学校の同級生で、秘かに好意を寄せていた対象の事でもありましょうからぼんやりとは知っているようでありました。頑治さんにあんまり話す素振りが無いものだから、気を遣ってあれこれ訊くのを控えていたのかも知れません。
「いや、兄貴の嫁さんは兄貴より二つ歳上で、俺なんかより四つも上だな」
「ああそうなんだ。ひょっとして同い年なら、頑ちゃんもそんなに気兼ねしなくても済むかなって、そう思ったものだから」
「でも、同い年なら、返って余計気兼ねするかも知れない」
 頑治さんはそう応えて、四つ年の離れた兄嫁と、自分と同い年の兄嫁ではどちらが気兼ねの度合いが大きいか、ちょっと考えてみるのでありました。
「その結婚しているお兄さんが頑ちゃんの二つ歳上で、その次が頑ちゃんで、その下に弟さんが二人居るんだったわよね、確か?」
「そう。俺と下の弟達は一つ違いで三人並んでいる」
 この辺りは前に話したような記憶があるのでありました。
「下の弟さん達は未だ学生?」
「俺のすぐ下の弟は高校を出たらすぐに繊維関係の会社に就職して、今は大阪で一人暮らしをしているよ。一番下のヤツは地元で理学療法士の専門学校に通っている」
「お母さんはもう悠々自適?」
「いやいや、俺が学校を卒業してようやく学費はからなくなったけど、一番下が未だ専門学校生だからなかなかそうはいかない。ウチはそんなに金持ちじゃなしから」
「ふうん、そう」
 夕美さんはここでちょっと会話に間を入れるのでありました。「で、さっきの話しに戻るけど、頑ちゃんとしては、今年の夏は帰って来る気はあるのよね?」
「夕美にばかりに交通費とか使わせるのは何となく申し訳無いからなあ」
「と云う事は、帰りたいって云う強い意志がある訳じゃないって事?」
(続)
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