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あなたのとりこ 549 [あなたのとりこ 19 創作]

 要するに頑治さんはそれに付き合わされただけと云う訳であるのかも知れませんが、しかし昼間の土師尾常務への申し入れの時に那間裕子女史が見せた、均目さんの態度に対する失望したような態度はどのように勘定したら良いのでありましょうや。那間裕子女史は団体交渉と云う従業員間の申し合わせを、社内の全体会議と云うものに変質させたいとの土師尾常務の提案に擦り寄った均目さんにがっかりして、申し入れの途中でその場を離れたのであります。それを鑑みれば、均目さんに好い感情は持てないでありましょう。
 依って、この後二人がそう云う経緯をすっかり脇に置いて、あっけらかんと逢瀬を楽しむとは到底考えられないのであります。となると頑治さんのこの推察てえものは、何だか随分見当外れで機微に目の届かない粗いものだと云えるでありましょうか。
 まあ、今日の昼間の土師尾常務への団交申し入れ以前はなかなかのなさぬ仲振りであったとしても、今日この後も続けて、二人が何時ものようななさぬ仲振りでいるとは限らないでありましょう。特に那間裕子女史の好悪のはっきりした頑な迄の潔癖性と、一端敵と見做したらとことん攻撃を貫く徹底性からすれば、少なくとも今日頑治さんと別れた後に均目さんと、何食わぬ顔して逢おうと云う気持ちには到底ならない筈でありますか。
 ところでしかし、那間裕子女史と均目さんの関係を頑治さんが縷々思い巡らす野暮なる謂れは、これは何も無いと云えば全く無いのであります。それは頑治さんにすれば知ったこっちゃない問題であり、二人からすれば余計なお世話と云うものでありまあすか。

 一人減り二人減り

 労使の団体交渉が社内の全体会議と云う形式になったから、袁満さんは全総連の横瀬氏にその経緯を説明して、恐縮ながら出席に及ばずと云う連絡を入れるのでありました。横瀬氏の方からは、これは体良く経営側に丸め込まれたのではないか、と云う危惧が発せられたのでありましたが、当該組合がそう合意した以上労働組合の上部団体としては、敢えてしゃしゃり出るべき事ではなくなったというところでありますか。
 袁満さんは横瀬氏への連絡を終えて、まんまと経営側の策略に乗って仕舞ったかも知れないと云う不安に駆られたのでありますが、もう既に遅いと云うものであります。ひょっとしたら自分達は頑治さんか甲斐計子女史か、それとも他の誰かの馘首を阻止出来ないかも知れないと、袁満さんは倉庫に来て頑治さんにその不安を漏らすのでありました。
 その公算は大であると頑治さんも考えるのでありましたが、経営側の誘導に乗って仕舞ったらしき事を組合の委員長として秘かに責任と後悔を感じているであろう袁満さんを、今頃遅いと詰る心算は全く無いのでありました。まあ、何となく事の経緯からすると、最初に馘首要員として土師尾常務に目を付けられた自分が辞める事になろうと頑治さんは観測するのでありましたが、そうなったらそうなったで仕方がないでありましょう。年季も社内で一番短いのでありますし、かけ替えも利く業務要員でもありますから。
 ま、この会社とは元々大して縁が深くはなかったと云う事でありますか。そう考えるとここで会社を辞める事に、怒りも絶望も未練も然程には感じないのでありました。
(続)
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yam

明けましておめでとう御座います
本年も昨年同様よろしくお願い申し上げます
by yam (2021-01-02 09:38) 

汎武

yam様
おめでとうございます。
本年もよろしくお願い致します。
by 汎武 (2021-01-02 09:59) 

ネオ・アッキー

明けましておめでとうございます
今年こそは、笑顔の一年でありますように
本年もどうぞよろしくお願い致します。
by ネオ・アッキー (2021-01-03 03:02) 

汎武

ネオ・アッキー様
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い致します。
by 汎武 (2021-01-03 17:53) 

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