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あなたのとりこ 670 [あなたのとりこ 23 創作]

「そう云う事なら益々、こちらにすぐに連絡を入れて欲しかったなあ」
 横瀬氏は恨みがましい目で四人の顔を見るのでありました。
「済みません。総てこちらの手落ちです」
 袁満さんはテーブルに額が付くくらい深くお辞儀して見せるのでありました。
「それで、二進も三進も行かなくなって、四人で会社を辞める事にしたのかい?」
 横瀬氏は何となく棘のある云い方をするのでありました。
「向こうに制作部廃止の目論見がある以上、あたしも均目君も会社を辞めるしかないじゃないですか。それは経営方針なんだから、向うの専権事項だし」
 那間裕子女史が横瀬氏の棘に対抗するようにぞんざいに云い棄てるのでありました。
「いや、向うの専権事項、と云って済ます問題じゃないよ」
 横瀬氏は那間裕子女史の不見識を批判するように、眉根に皺を寄せながら云うのでありました。「それは単なる労務対策と云うだけで、要は面倒な組合員達を会社から排除しようと云うのが本当のところかも知れないしね」
 それは確かにそう云う側面、いや、ひょっとしたら、正面、があるかも知れないと頑治さんは思うのでありました。その謀に自分達はまんまと乗ったのであります。
 と云うより、実は向こうの魂胆は薄々判っていたくせに、面倒になる事を嫌って意識的に見過ごして仕舞ったのでありますか。これは那間裕子女史にしてもそう諾うところがあるようで、横瀬氏に抗弁したそうに頬を膨らませて見せるものの、何も云い返さないのでありました。実は逃げたのでありますから、云い返す面目が立たないのであります。
「向こうに組合員を会社から追い出そうと云う肚があったとしても、それに対抗してうんざりするような対抗措置を長々と続ける気は、そもそも我々にはありませんし」
 均目さんが云い出すのでありました。「そんなようなら、綺麗さっぱり会社を辞めて次の道を探す方が賢明だと云う判断ですよ」
「会社側に不当極まりない扱いをされても、何も云わず黙って、情けなく会社の良いようにされっ放しになる、と云うのかい?」
 横瀬氏は眉根の皺の数を増やすのでありました。
「妙に事態が拗れて対決が長引くよりは、その方が余程マシだと思います」
 均目さんは悪びれない云い様を装うのでありました。
「ここに来てケロッととそう云われて仕舞うと、今迄君達の組合結成や春闘にあれこれ力を貸してきた全総連の立場がないね」
「いや、今までお世話になった事には感謝しています」
 袁満さんがまたもや深いお辞儀をするのでありました。「何も知らない我々が曲がりなりにも組合を結成して、春闘では多くの成果をかち取る事が出来たのは、偏に横瀬さんや全総連の皆さんのお蔭だと心から思っていますよ」
「でも、その感謝の意も、かち取った成果もここでサラリと捨てる訳だ」
 横瀬氏は皮肉な笑みを浮かべるのでありました。袁満さんは苦った表情で肩を竦めて、更なるお辞儀なのか単に俯いたのか判らないような所作をするのでありました。
(続)
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U3

<記事の関係のないコメントご容赦下さい>
 貴殿もご存じの『a r c』が記事を更新しています。学校と塾の連携の話で一見まともな紹介記事のように思えますが、これは出典元のURLや掲載イラストの出典元の記載のない状況から判断すると、その学校法人と、提携している学習塾の許可なく掲載したものと思われます。(これは違法行為です)
 この者は過去に新型コロナウイルス関連記事でも、原典を改ざんして違法行為を平然と行った前歴があります。
『a r c』は貴ブログにnice!を押しています。しかしお礼でnice!を返す事は、この者の違法行為を助長すること、加担することに繋がります。
 ですから、もしこの者がnice!を押したとしても、お礼nice!は絶対に為されないようお願いいたします。
by U3 (2022-03-03 09:22) 

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