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あなたのとりこ 643 [あなたのとりこ 22 創作]

 袁満さんはきっぱりと云うのでありました。そのきっぱりさに引き摺られるように頑治さんも立ち上がるのでありました。均目さんも那間裕子女史も続いて立ち上がるのでありましたが、甲斐計子女史は少しの間逡巡するような素振りを見せるのでありました。
 しかし甲斐計子女史は、それでも自分は一応組合員であると云う自覚と義理からか、どこか躊躇いがちで弱々しく膝をゆるゆると伸ばして腰を上げるのでありました。何やらその風情と云うものは痛々しそうですらあるのでありました。それを見て頑治さんは、この期に於いて自分達に同調を求めるのはどこか酷なような気がするのでありました。

 全体会議を切上げた後、組合員はお茶の水通り沿いの全総連の入っている古びたビルを通り越して、御茶ノ水駅近くのマンモス喫茶店ウィーンに向かうのでありました。全総連に直行するのではなく、その前に喫茶店で打ち合わせを持つと云う事は、実は全総連に事の次第を報告して、愈々会社に対して敵対的な労働争議を大袈裟に開始する確然たる覚悟がなかなか固められなくて、どこか未だ及び腰であったためでありますか。
 席に着いてから袁満さんが均目さんに確認するのでありました。
「均目君は会社を辞める決心は変わらないのかな?」
「勿論その心算です」
 均目さんは袁満さんを見ないで俯きがちに頷くのでありました。
「那間さんも、同じかな?」
 袁満さんは、今度は那間裕子女史に視線を向けるのでありました。
「あたしも辞める心算よ。だって会社の中に居る場所がなくなる訳だから」
「でも営業社員としてなら残って貰っても良いと云う事だったけど?」
「営業として残る気は、更々ないわ」
「均目君もそうかな?」
 袁満さんはまた均目さんの方に目を移すのでありました。
「俺もまっぴらですよ、社長や土師尾常務にああ迄云われて残るのは」
 均目さんは、今度は袁満さんの目をしっかり見ながら応えるのでありました。
「ああそうか。まあ、そうだよなあ」
 袁満さんはがっかりしたような風情で二人の意を改めて呑み込むのでありました。
「しかし徹底抗戦と云う事になったら、その闘争の間は辞めませんよ」
 均目さんは袁満さんの落胆を慮ってそう云うのでありました。
「あたしも闘争がひどく長引かないのなら、残っても構わないわよ」
 那間裕子女史も一つ頷いて見せるのでありました。
「しかし法廷闘争まで行くとしたら、かなり長引くんじゃないかな」
 袁満さんは顰め面で首を傾げるのでありました。
「あんまり長引くと生活ができなくなるし、それは困るわ」
「しかし例えば争議団体にはカンパやら全総連からの助成やら、それに全総連の各組合を相手に物品販売やら、色々と生活支援の手立てはあるみたいだけど」
(続)
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U3

nice!押し逃げですみませ〜ん♡(^0^)
名前を見てもお分かりのように、『H☆imagine』のU3です。
社会派ブログの『Justice!』をメインブログにしました。今後ともよろしくお願いします。
by U3 (2021-11-24 16:03) 

汎武

ご訪問、niceを有難うございます。
宜しくお願い致します。
by 汎武 (2021-11-28 23:32) 

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