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あなたのとりこ 556 [あなたのとりこ 19 創作]

 社長が土師尾常務に代わってまた話し出すのでありました。
「じゃあ、何処に原因があると云うんですか?」
 袁満さんが少し気色ばんで社長に訊き質すのでありました。袁満さんが気色ばむと云う事は、袁満さんとしては売り上げの落ち込みの責は、全く以って偏に土師尾常務の好い加減な仕事振りにあると思っているのでありましょう。
「まあ、そこは様々な原因があるんじゃないかと思うよ」
 社長はあやふやに応えるのでありました。
「そこをちゃんと分析していないんですか?」
 袁満さんが詰め寄るのでありました。
「一応思い当たる要因は、幾つかありはするよ」
「つまりちゃんと分析出来ていないと云う事ですよね。ちゃんとした分析もしていないで、どうして社長は土師尾常務の器量とは無関係だとここで断言出来るのですか。何となく社長と土師尾常務で結託して、危機を演出しているような疑いがどこかしますね」
 ここで均目さんが首を傾げて見せるのでありました。
「僕と社長で何を結託するんだ! けしからん事を云わないでくれるか」
 土師尾常務が先程の袁満さんに代わってやおら気色ばむのでありました。
「そうやってすぐにカッカとするところが、全く怪しいですね」
 均目さんも負けていないのでありました。「若し会社を解散した方が良いと云うのなら、ちゃんと数字を出て、是々こう云う訳でそうする方が良いんだと、筋道立てて説明して貰わないと納得出来る訳がない。そう云うきちんとした説明もなく、ただ業績が悪いとか売り上げが伸びないとか云い募られても、その儘信用も出来ないし、何か別の効果を狙って危機を煽っているんじゃないかって、そんな疑いも湧いてくると云うものですよ」
「何のためにそんな事をする必要があるんだ」
 土師尾常務が均目さんを、目を怒らせて睨むのでありましたが均目さんは全く怯む様子はないのでありました。日頃からその人間性を見縊り切っている土師尾常務如きの威迫なんぞは、均目さんにとっては笑止千万で屁の河童、と云うものでありますか。
「まあ、何かしらの布石を打つ心算で一生懸命危機を演出しているんだろうし、そんな邪な肚の中のは口が裂けても云えないでしょうけれど」
「それは失礼だろう均目君。どうしてそんな邪推をするんだ!」
 土師尾常務は顔色を変えるのでありましたが、眼鏡の奥の黒目が例に依ってそわそわと微動しているのでありました。単細胞で尚且つ小心者が一生懸命に凄んだり怒ったりして見せるのもなかなか骨が折れるのだろうと、頑治さんは内心で笑うのでありました。
「まあまあ、落ち着いて」
 社長が土師尾常務を宥めるのでありました。土師尾常務のように何か云われたらせっかちにいきり立って対抗するよりも、ここで余裕のあるところを見せておかないと、益々均目さんだけではなく、対面する従業員全員に増長されるばかりだとの判断でありましょう。まあ、社長の方が土師尾常務より少しは細胞の数が多いと云う事でありましょうか。
(続)
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