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あなたのとりこ 407 [あなたのとりこ 14 創作]

「メーデーのデモ行進に参加しないでこうして寛いでいるのは、何となくプラカードを持って歩いているあの三人に対して申し訳無いような気もするよなあ」
 頑治さんはオムライスにスプーンを刺しながら云うのでありました。
「いや別に申し訳無く思う事はないんじゃないかな。あの三人はもの珍しさから、自分の意志で行進に参加しているんだし」
「しかし那間さんはどういう了見で参加したんだろう。大体あの人はああいうのはちょっと軽蔑気味に億劫がって、真っ先に一抜けたを表明するタイプじゃなかったなか」
「それはそうだな。どう云う気紛れを起こしたのかな」
 均目さんが自分の前のハンバーグにナイフを入れながら応えるのでありました。「ま、後日その辺は少し詳しく聞き質してみても良いけど」
「出雲さんも明日は土師尾常務と一緒に水戸に営業回りに出るんだし、そう云う気が滅入るような仕事を直前に控えていて、良く東京駅まで行進する気が起きるよなあ」
「まあ、明日はうんざりでも、明後日からは三連休だからと云う浮かれがあるのかな」
 均目さんはそう云った後、ハンバーグの一欠片を口の中に運ぶのでありました。
「しかし明日の土師尾常務と一緒の水戸行きは、当人としてはかなり気が重そうだったけどなあ。倉庫に来て何やかやと俺に愚痴を零していたし」
「それはそうだろうよ。あの土師尾常務と一緒に営業回りするとなったら、出雲君に限らず誰だって気が滅入るし、平に願い下げと云うところだろう。どうせ道中、あの土師尾常務の事だから、お辞儀の仕方とか電車の乗り方とかの殆ど無意味な事に関しても、得々として聞いた風な事を宣わってご指導に及ぶ心算なんだろうからなあ」
「出雲さんは今日の行進よりも明日の方が、より疲れて帰って来そうな雰囲気だな」
「まあ、間違いなくそうなるだろうな」
 均目さんは頷いて、口の中にハンバーグが入っているものだから、少しモゴモゴと喋り辛そうに口を動かしてから諾うのでありました。
「ところ均目君は、明後日からの三連休は何処かに旅行にでも行くの?」
 頑治さんはスプーンに大盛りのオムライスを口に運ぶのでありました。
「いや、別に遠くに出掛ける予定はないよ。三連休初日に前から那間さんに誘われていた映画を見に行くくらいで、後は家でのんびり過ごすよ」
「ほう、明後日は那間さんとデートかい?」
「いやそんなんじゃなくて、切符が二枚手に入ったからって誘われていて、それでまあ、どうせ暇だから付き合う事にしたと云うだけだよ」
「それで充分、デートとして成立するように思うけど」
「そうかな。実感としてはそんな感じじゃないけどね。そう云う事は前にもあったし、単なる友達付き合いと云う雰囲気以上のものは何も無いよ」
 均目さんは特段照れるでもなく、或いは態と照れる風を隠そうとしてか、さり気ない口調で云うのでありました。まあ、均目さんと那間裕子女史がお互いどのようなスタンスで映画を一緒に観に行くのかは、頑治さんにはどうでも良い事ではありましたけれど。
(続)
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