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あなたのとりこ 640 [あなたのとりこ 22 創作]

 均目さんは土師尾常務の小心を見抜いて、嵩にかかって云い募るのでありました。
「と云う事は、・・・」
 ここで社長が喋り始めるのでありました。「均目君と那間君がこの全体会議に参加して何でももの申す権利があるのだから、同じ事でどんなに会議の進行を妨げていると云っても、土師尾君も会社の一員なんだからこの会議に参加する権利があるんじゃないのかね。それなのにこの場から退席しろと云うのは、これは矛盾する云い草じゃないのかね?」
 社長は袁満さんを見ながら余裕の笑みを浮かべるのでありました。
「それは、そうですが、・・・」
 云い返す理屈に窮して今度は袁満さんがたじろぐ番でありました。
「しかし建設的な意見ならこちらも聞く気持ちもありますが、下らないいちゃもんやら挑発やら、それに全く的外れな憤慨とか自己保身のための強弁とか、そんなものばかりしか口にしない人は会議の邪魔にしかならないじゃないですか。真面目で厳粛な会議の進行を保証するためには、邪魔をする人は出て行って貰わないといけませんよね」
 均目さんがあたふたし出した袁満さんの代わりに云うのでありました。
「僕はあくまで会社の将来を思ってものを云っている心算だ」
 社長の応援を得たもので、土師尾常務はここで意を強くして、居丈高に云うのでありました。まあ、何となく従業員側の方が分が悪いような気配でありますか。
「要するに常務の云う会社の将来とは、先程整理したように、甲斐さんと日比課長以外の社員を切り捨てて、しかも残った甲斐さんと日比課長の賃金やら待遇は、春闘以前の水準に戻すと云う事で、そこから一歩も動く気がないのでしょう?」
 袁満さんがなかなか立ち直らない風情なので均目さんが続けて云うのでありました。
「社長はこちらの云い分も聞くつもりだと云って、自分は然ももの分かりのよさそうな顔をしながら、実は土師尾さんを矢面に立たせて、あたし達とちっとも噛み合わない云い合いをさせ続けて、結局一方的にそちらの云い分を四の五の云わずに呑み込ませようなんて云う、そんな狡い肚なんでしょう。そんな陳腐な策謀なんか疾うに知れているわよ」
 那間裕子女史も均目さんに加勢するのでありました。この二人の仲がどうなっているのかは知れないながら、立場の上に於いてこの共闘は納得出来るものでありますか。
「そんな事はないよ。僕はあくまで双方で納得出来る解決策を模索する心算だ」
 社長はこの上も無く謹慎そうな顔で云うのでありました。狐と云うのか狸と云うのか、ネコ被りと云うのか、社長もなかなか食えない御仁であります。
「寧ろ、賃金や待遇面では一歩も譲らないとか、誰一人会社を辞めさせないとか、駄々っ子みたいにつべこべ自分達の一方的な云い分で騒ぎ立てて、少しも歩み寄ろうとしないのは君達の方じゃないのか。僕にありもしない罪を着せて、あれこれ詰って話し合いを妨害する前に、君達こそ自分達の度し難い頑なさを反省するべきじゃないのか」
 社長が土師尾常務をこの話し合いから排除する事の不当を、それなりの筋の通った理屈で指摘した言に依って、形勢が少しばかり自分達に有利になったと云う感触を得て、ここは攻め時と土師尾常務は調子に乗ってこう云い募るのでありました。
(続)
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