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あなたのとりこ 666 [あなたのとりこ 23 創作]

 土師尾常務は頑治さんの対抗心に気付いて慌てて視線を外したのでありましたが、未だ頑治さんが自分をじっと見ているのを頬に感じるようで、どこかおどおどした様子で居住まいを正したりするのでありました。本来肝っ玉の小さい人でありますし、どう云うものか頑治さんは苦手のようでありますから、こう云う反応になるのでありましょう。
 頑治さんの後に甲斐計子女史が出社して来るのでありました。その後数分置いて袁満さんが現れるのでありました。袁満さんは扉の開く音に振り返った頑治さんに手を挙げて挨拶を送るのでしたが、頑治さんの時同様天敵を睨むような目で袁満さんを見据える土師尾常務の視線に対しては、ちゃんと気付きながらもすげなく無視するのでありました。
 その後、出社時間ギリギリで扉を開けるのは均目さんでありました。均目さんは袁満さんと頑治さんに順に挨拶の言葉をかけるのでありましたが、袁満さん同様に土師尾常務は無視するのでありました。例によって那間裕子女史は朝寝坊で遅刻のようであります。
 制作部スペースに進む均目さんに対しても、土師尾常務はその姿が見えている間、敵意剥き出しの視線を向けるのでありましたが、均目さんも相手にしないのでありました。
「何か自分達三人に対して云いたい事でもあるのですか?」
 頑治さんは均目さんの姿を眉間に皺を寄せて目で追う土師尾常務に対して竟、不愉快を隠さないでそんな言葉を掛けて仕舞うのでありました。
 土師尾常務は反射的に頑治さんの方に視線を移して、頑治さんの鋭く睨む目に出くわすと慌てて視線を外すのでありました。この遣り取りで歩を止めた均目さんが頑治さんと土師尾常務を交互に見るのでありました。
「俺達三人をそんな妙な目で睨むのは、何か云いたい事があるからでしょう?」
 袁満さんがそう云いながら、自席を立って頑治さんの横にゆっくり遣って来るのでありました。均目さんもマップケース向うの制作部スペースに引っ込むのを止めて、その場に立ち止まって土師尾常務の方に視線を投げるのでありました。何やらかなりの険悪な雰囲気に、甲斐計子女史は関わり合いになるのを避けるように、慌てて席を離れて入り口脇のカーテンで仕切られた小さな炊事スペースの方に避難するのでありました。
「君達は社長に直接、辞表を提出したようだな」
 土師尾常務が不快感を眉宇に滲ませるのでありました。「そういうものを直接社長のところに持って行くと云うのは、実に不謹慎な行為じゃないか、と僕は思う」
「しかし常務に出そうにも、例によって常務は得意先直行とやらで会社に現れなかったじゃないですか。それにその後も思った通り結局会社には顔を出す事なく、出先から直帰したんだからこちらとしては、要するに止むを得ず社長に提出した迄ですよ」
 袁満さんが土師尾常務を睨みながら云うのでありました。
「それなら今日迄待てば良かったんだ」
「今日まで待っても、常務が朝から会社に現れると云う保証は何もないですからね」
「現に今日は、僕は誰よりも早く、朝一番に出社しているじゃないか」
「それはどうせ、昨日社長から電話か何かがあって、そこで散々叱責されたり苦情を云われたりしたものだから仕方なく、殊勝らしく朝から会社に出て来たんでしょう」
(続)
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