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あなたのとりこ 665 [あなたのとりこ 23 創作]

「いやあ、それはあの政党の正体を知らないからだよ」
 均目さんはあくまでも自分の考えに拘るのでありました。
「兎に角、甲斐さんが組合を一人で続けていくなんて事はないし、甲斐さんがあたし達が辞めた後の面倒な全総連との遣り取りをしなくて済むように、あたし達が会社を辞める責任に於いて、組合解散と全総連からの離脱をはっきり申し入れていくべきよね」
 那間裕子女史は均目さんのあれこれ面倒臭い話しを打ち止めにするように、そう云って同意を求めるように頑治さんを見るのでありまいした。
「ま、それが筋でしょうからね」
 頑治さんは頷いて那間裕子女史に同調する意を表すのでありました。
「明日にでも我々四人で全総連に赴いて、組合結成以前からお世話になった横瀬さんに、先ずちゃんと報告する事にしようか」
 袁満さんが頑治さんを見ながら云うのでありました。「その時に組合存続やら長期の闘争を強く勧められたとしても、まあ、あくまでも俺達が会社を辞める意志の強さをしっかり示せば、横瀬さんとしてもそれ以上、慰留とか指示とかは出来ないんじゃないかな」
「そうね。こっちの意志次第よね、結局」
 那間裕子女史が何度か頷いて見せるのでありました。
「そんな風に、こっちの思い通りにいくかね」
 均目さんは首を傾げて未だ懐疑的なところを表するのでありました。
「でもまあ、結局全総連には俺達の考えをちゃんと伝えなければならないし、それを遣らなければ、俺達としても結局、すんなり会社を辞められないし」
 袁満さんは説得するように均目さんの方に少し強い視線を向けるのでありました。
「均目君は全総連にあたし達の態度を表明する事に嫌に消極的なようだけど、それじゃあ訊くけど、他にあたし達が、甲斐さんや全総連に対して無責任じゃなく、きっちり後始末をして会社を辞めていく、どんな方法があると云うの?」
 那間裕子女史もやや強めの視線を均目さんに送るのでありました。
「まあそう云われると黙るしかないけどね、俺としては。つまり俺が云いたいのは、全総連と云う組織は、俺達が考えている程正義の味方的な組織なんかじゃないし、単純に俺達の意志をちゃんと尊重してくれるだけの、甘ったるい組織でもないと云う事だよ」
 均目さんはそう云ってビールグラスを手にするのでありました。要は均目さんとしては敢えて反対の意を表したり茶々を入れる心算はなかったのかも知れませんが、しかしちょいとばかり理屈を捏ねてみたかったと云う事になりますか。別に均目さんとしても、全総連に報告に赴く事自体に断固反対する等と云う意は更々なかったのでありましょうし。

 次の日の朝頑治さんが出社してみると、珍しく土師尾常務が既に自席に座っているのでありました。土師尾常務は頑治さんを一瞬天敵を見るような目で睨むのでありました。頑治さんはどうしましたと敢えて静かに訊き質して、彼の人と同等程度の敵意を露骨にここで示して脅してやろうかと思うのでありましたが、まあそれは止めるのでありました。
(続)
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