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あなたのとりこ 634 [あなたのとりこ 22 創作]

「残業代の水増し請求の件は春闘の時に既に暴露されていたけど、他にもあれこれともっとみっともない不正を我々はしっかり掴んでいるんだから、これ以上抜け々々と偉そうな口は叩かない方が寧ろ賢明だと思いますがねえ」
 均目さんは憫笑を頬に浮かべるのでありました。
「何を根も葉もない事を偉そうに喚いているんだ。僕は自分の良心に照らして、恥じ入らなければならないような事は絶対にしてはいない!」
 土師尾常務は大声で喚くのでありました。しかしその様子はと云えば、先ずは瞬間はっきりたじろぎを見せて、その後慌ててそれを繕うように言葉付きもどこかたどたどしく、顔を引き攣らせながら逆上していると云った具合でありましたか。
「で、常務と社長の責任はどう考えているんですか?」
 袁満さんが土師尾常務の狼狽に付け入るように訊くのでありました。
「君等の怠慢に比べれば、僕の責任なんてちっぽけなものだ!」
 土師尾常務は益々みっともない所へ自ら陥っていくのでありました。

 そんな土師尾常務を冷ややかな横目で見て、社長が喋り出すのでありました。
「確かに私は下の紙商事の社長業に比べれば贈答社の方はそんなに熱心ではなかった。それは認めるよ。紙商事は私が汗をかいて一から創った会社だけど、贈答社は前身の地名総覧社を、立て直してくれと云う債権者の要望を受けて経営を引き受けた会社だから、それは確かに親身さが違っていたし、社業の内容よりは経営的側面で関われば良いかと云う思いもあったからね。実質的な会社の運営とか社員の採用とか配置とかの人事は土師尾君と片久那君にすっかり任せて仕舞っていたよ。その辺は僕の怠慢であったと思うよ」
「ではそれに対して社長は、どのような責任をお取りになるお心算ですか?」
 袁満さんは土師尾常務に対する時よりは丁寧な言葉つきで訊ねるのでありました。
「勿論その応えとしては、社長としてもっと贈答社の社業に身を入れると云う事になるのだが、君達がそんなのは責任の取り方と云う点で応えになっていないと云うのなら、私は最終的には贈答社の経営から手を引いても構わないとも思っている」
 社長はごく冷静な口調で云いながら袁満さんを半眼に見るのでありました。これは社長の、一種の脅しに違いないと頑治さんは聞きながら思うのでありました。つべこべ云うのなら会社を放り出しても構わないのだぞと、露骨に恫喝しているのであります。
「会社の経営から手を引くと云うのは、社長を辞めると云う事ですか?」
 袁満さんは首を傾げながらそう訊き返すのでありました。
「まあそう云う事だ」
「それは社長として無責任でしょう」
 袁満さんは眉宇に憤怒を湛えるのでありました。「この先社員が路頭に迷う事を一顧だにしないで、そんなに簡単に綺麗さっぱり会社の経営からに身を引けると、本気で考えているんですか社長は? そんな呆れた責任放棄は絶対許しませんからね!」
 袁満さんの剣幕に、社長は少し気後れする仕草を見せるのでありました。
(続)
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