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あなたのとりこ 633 [あなたのとりこ 22 創作]

「誰も会社を辞めないし、制作部もその儘存続させるし、ウチが持っている本類や地図類の版権も処分しない。それから春闘でやっとかち取った我々の待遇も変更をしない、と云うのが我々の基本的なスタンスです。下手な妥協はあり得ません」
 袁満さんが断固として云い放つのでありました。
「それは絶対無理だと、従業員に開示する必要もないのに売り上げの実績を示して、真摯にこちらが話しているのに、一体今迄何を聞いていたんだ袁満君は!」
 土師尾常務がいきり立つのでありました。
「それだって、要するにそちらにだけ好都合な数字を適当に並べたものでしょう」
 袁満さんは取りあわないと云った態度でありました。
「いや々々、そうじゃないよ。現実にその数字通りに厳しいところだよ」
 社長がソファーの背凭れから身を乗り出して、掌を横に大きく振って見せるのでありました。何が何でもここは引けないと云うところでありますか。
「では訊きますけど、若し仮にその如何にも大袈裟に水増ししてあるらしき数字を、実感から一定程度認めるとして、そうなった責任は我々従業員だけにあるのですか?」
 袁満さんは社長の顔を一直線に見ながら訊くのでありました。
「勿論君達の万事に無責任で、何が何でもと云う真剣さに欠けた仕事態度が主因だと思う。そうは思わないのか自分達で?」
 土師尾常務が息巻くのでありました。
「常務の仕事態度とか、従業員をげんなりさせるだけの言動とかは全く問題にならないのですか。それに自分の会社だと云うのに、その運営に深く関わろうとはしなかった社長の今迄の在りようとかも、全く問題にはならないのですか?」
「それはそう云われて反省するところがない事もないけど、しかし大半は君達の好い加減で怠慢な仕事振りにあると僕は確信している。僕は僕なりに懸命に会社のために働いていると云う誇りがあるよ。少なくとも君達よりは余程」
 土師尾常務は抜け々々とそう云い放つのでありました。
「ああそうですか。しかし片久那制作部長が居た時はすっかり片久那制作部長に仕事も会社内部の管理も任せっきりだったし、だから取締役になる前から出社時間も守らなかったし、仕事だと称して外に出たら必ず直帰して会社に戻って来る事もなかったし、残業時間も片久那制作部長の残業時間を目安にして、直帰した時の分迄も水増しして、片久那制作部長と同じくらいになるように勘定して、残業代をあくせく稼いでいましたよね」
 これは均目さんが云うのでありました。もう会社を辞めるとなったら土師尾常務への遠慮なんぞもすっかりなくなって、云いたい放題が出来ると腹を括ったのでありますか。
「何を根拠にそんな好い加減な事を並び立てているんだ!」
 土師尾常務は社長の前で痛いところを指摘された事にたじろいでか、身を震わせながら均目さんに向かって声を荒げて見せるのでありました。
「それどころか仕事時間中に全くの私用で副住職を務めている千葉の寺に行ってアルバイトをしていたりとか、他にもあれこれインチキ社員振りはネタが上っていますよ」
(続)
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