SSブログ

あなたのとりこ 632 [あなたのとりこ 22 創作]

「じゃあ、社長と常務の考える会社の新体制の人員と云うのは、社長と常務の他には日比さんと甲斐さんと唐目君の三人、と云う事になるんですね?」
 袁満さんが不愉快そうな顔をして確認するのでありました。「で、その三人の賃金は今の基本給の二十パーセントをカットして、住宅手当がなくなって、その上に今年の年末一時金は払われない、と云う事になるのですね?」
「そう云う事になるかな」
 土師尾常務は深刻顔で一つ頷くのでありました。
「と云う事だそうだよ」
 袁満さんはそう云って日比課長と頑治さんと甲斐計子女史の顔を順に見渡すのでありました。それから土師尾常務に向かって聞えよがしの溜息を吐いて見せるのでありました。しかし袁満さんは自分も余計者とはっきり宣言されたのが内心なかなかの痛手であったようで、云い草にどこか悲痛な感じが籠っているのでありました。
「話しにならないですね」
 頑治さんが土師尾常務の顔を睨み付けながら吐き捨てるのでありました。「社長や常務は従業員を一体何だと思っているんですか。そんな自分達にだけ好都合な決定が、すんなりまかり通ると本気で考えているのですか?」
「いや、これは提案であって決定ではないし、この提案を有無を云わさず押し付けると云っているんじゃない。こちらの正直なところを打ち明けて、君達と真摯に話し合いたいと云っているんだよ。そう云う中から双方が受け入れられるところを見付けたい訳だ」
 社長がいやに柔らかな語調で云うのでありました。
「そんな提案とやらは即座に拒否しますよ」
 頑治さんは取り付く島もないと云った風に断じるのでありました。
「提案と云いながら、結局はゴリ押しする肚心算でしょう」
 袁満さんが鼻を鳴らすのでありました。「そう云うお為ごかしにまんまと乗ると思っているんですか。随分と嘗められたものだな」
 社長はこの袁満さんの言を無礼と感じて一瞬険しい顔をして不快感を眉間に表わすのでありましたが、しかしここはグッと堪えて怒りを肚の中に呑み込むのでありました。
「何だその不謹慎な云い草は!」
 そんな社長の心情を察して、ここは忠義の見せどころと、横の土師尾常務が例に依って背凭れから身を起こしてしゃしゃり出てくるのでありました。
「いいですよ、例によってそんなに意気込まなくても」
 袁満さんが舌打ちするのでありました。「そんなに一々突っかかってこなくても、社長はちゃんと家来のご忠節ぶりはご存知でしょうから」
 この言葉に日比課長を除く従業員全員が失笑するのでありました。土師尾常務は何となく引っ込みがつかなくなったのか、もっと何やら喚こうとするのでありましたが、ここでも社長からまたもやまあまあと手で制されて仕舞うのでありました。
「それでは君達の考える会社の生き残り策とか、待遇面の提案を聞かせてくれるか?」
(続)
nice!(10)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 10

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。