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あなたのとりこ 618 [あなたのとりこ 21 創作]

「その経緯に関しては後に片久那制作部長から少し詳しく俺は聞いた事がありますが、それによると常務も一枚噛んでいて、二人で結託した事は間違いないですね」
 これは均目さんが云うのでありました。頑治さんは均目さんが片久那制作部長から山尾主任の営業部コンバートの件に関して何か詳細を聞いていると云うのは、これはひょっとしたら一種のハッタリではないかと、頭の隅でちょいと疑うのでありました。
 まあつまり、順当に考えて山尾主任の後継になるであろう均目さんになら、ひょっとしてその辺りの詳しい事情を片久那制作部長は話したかも知れないと、土師尾常務が勝手に憶測する事を期してのハッタリであります。実はそんなところを均目さんが知っている筈もないのだろうけど、ひょっとしてひょっとしたらと云う、大体が気の小さい土師尾常務の弱気にまんまと付け込んで、心根を揺さぶってやろうと云う魂胆であります。
「そんな事は絶対にないよ。第一均目君に、そんな事を片久那君が云う筈がない」
 土師尾常務はムキになって云い返すのでありました。
「そんなにムキになって、否定しなくても良いですよ」
 均目さんは余裕たっぷりの口振りで片頬に笑みを浮かべていうのでありました。
「ムキになんかなっていないよ!」
 土師尾常務はよりムキになるのでありました。
「ああそうですか。それならそう云う事にして置いても構いませんよ」
 均目さんは嘲弄するように鼻を鳴らすのでありました。こうなってくると小心で短気と云う特徴を持つ土師尾常務は、大いに分が悪いと云うところでありますか。実は結託と云う程の謀めいた事実はなかったとしても、この土師尾常務の態度に依ってその疑いは返って濃くなったと云う印象であります。ま、均目さんの目論見通りであります。
「要するに、如何にも山尾主任の時と遣り口が似ていると云っているんですよ」
 頑治さんが後を引き取るのでありました。「制作部から営業部に調子の良い事を云って鞍替えさせて、その後にお客さんに対する態度とか言葉遣いとか、その営業の遣り方とかの細々とした点に一々難癖をつけたり罵倒したりして、結局居たたまれなくして会社を自分から辞めさせようと云う肚なのでしょう。それに、出雲さんの地方特注営業の時も、同じ遣り口で意地悪を繰り返した挙句の果てに、いびり出したんでしたよね」
「馬鹿な! そんな、訳じゃ、・・・」
 土師尾常務は先ず弁解しようとして強く頭の言葉を吐くのでありましたが、頑治さんの顔を見ながら、次第に尻すぼみに弱々し気に語調を落とすのでありました。どんな思いの経緯かは確と判らないながら、土師尾常務はここにきて急に、頑治さんと云う存在を那間裕子女史の如く苦手と感じ取って仕舞った、或いはもっと云うと、自分の小細工とか口から出任せが全然通用しない相手と、ハッと驚くように覚ったと云う按配でありますか。
 その土師尾常務の動揺が伝わるものだから頑治さんとしては、ここは一番それに乗じない手はないと云うものであります。
「そんな訳じゃないと、未だ云い募る心算ですか?」
 頑治さんは無表情で半眼に土師尾常務の目を見つめるのでありました。
(続)
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