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あなたのとりこ 608 [あなたのとりこ 21 創作]

「ああそうかね」
 あっさり甲斐計子女史に肯定されて仕舞ったので、土師尾常務は険しい眼容で甲斐計子女史を一睨みして不快感を示しながらも、次の句の接ぎ穂を失って、意ならずも何となく曖昧に語尾を収めざるを得ないのでありました。それを見て頑治さんは表面上無表情を貫きながらも、心の内で笑いの組に加わるのでありました。
「唐目君はどう思っているんだ、僕の事を」
 最後の砦、と云う訳ではないでありましょうが、土師尾常務はどこか縋るような色をその険しい眼光の中に仄見せるのでありました。
「那間さんや均目君と殆ど同じ考えです」
 頑治さんも甲斐計子女史に倣ってさっぱりといた物腰で云うのでありました。それを聞いた土師尾常務は口を尖らせて眼中の棘を一層逆立てるのでありました。日比課長は曖昧な態度ながらも、まあ、土師尾常務は完璧なる嫌われ者と云う感じでありますか。しかしこう迄従業員に良く思われていないのがはっきりした以上、返す言葉ももうないようであります。良く思えと従業員に命ずる頓馬を仕出かす訳にもいかないでありますし。
「何だか土師尾君は皆から総好かんを食らっているようだな」
 社長は隣に座っている土師尾常務の顔を向けながらしみじみ云うのでありました。
「不徳の致すところです」
 土師尾常務はしおらしそうに云うのでありましたが、勿論本気で恐縮しているわけではないのでありました。いつか必ず全員に手酷い仕返しをしてこの恥辱を雪いでやると云った怨念を、その顔から隠そうとしないのでありました。
「ところで、こう云った不毛な誹謗中傷の消耗戦を延々と繰り返していても、会議としては全く無意味だと思いますので、この辺で一旦締め括りませんか?」
 頑治さんが唐突にそう云い出すのでありました。
「それもそうだな」
 社長がその頑治さんの提案に早速同調するのでありました。社長としてももう好い加減こんな不毛な話し合いの様相に疲れたのでありましょう。
「でもこの儘終わる訳にはいきませんよ。こんな状態で終わったなら、誰も明日から仕事をする気にはなりませんよ」
 均目さんが社長を睨みながら反対するのでありました。
「でも一端時間を置いて、少し頭を冷やしてからこの後の話しを進めないと、纏まる話しも纏まらないんじゃないのかな」
 頑治さんは均目さんに向かって云うのでありました。
「頭を冷やしてみたところで、結局また今の話し合いと同じところに戻って、誹謗中傷合戦に終始して、何処かに纏まるような話しは出来ないと思うけどなあ」
「でも、もう土師尾さんの御託をくどくどと聞きたくもないから、今日の内に覚悟して行き着くところ迄議論する方が結局纏まるんじゃないかしら」
 那間裕子女史も頑治さんの言に異を唱えるのでありました。
(続)
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