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あなたのとりこ 581 [あなたのとりこ 20 創作]

「でも那間さんはそう考えていた」
「それはそんな感じだったかな」
 均目さんは小さく頷くのでありました。「でも俺としては、穏便な会議にした方が今後の土師尾常務や社長との関係が良好に行くと考えたんだよ」
 ここで頑治さんはやや険しい顔になるのでありました。
「関係が良好に行く必要を、均目君は本当に考えていたのかな?」
 これは勿論、均目さんが片久那制作部長の誘いに依ってそう遠くない将来、確実に会社を辞める心算である事を踏まえた質問でありました。その頑治さんの思いは均目さんにもすぐに伝わったようで、均目さんは決まり悪そうな笑いをするのでありました。
「まあ、確かに俺はこの先そう長く会社に残らないだろうから、会社の将来像に対して実は何の切実さも有していないと見做されても仕方ないけどね」
「要は大袈裟な労働問題になったりして、社長や土師尾常務との関係を妙な具合に拗らせたくなかったと云う事だろう。関係が拗れると何となく辞め辛くなるから」
「まあ、本音はその辺に在るのは認めるよ」
 その均目さんの云い草を聞いて、頑治さんは特に頷きもしないのでありました、それから不意に、と云った感じで立ち上がるのでありました。均目さんは何か頑治さんの気に障るような事を云ったかしらと、やや身構えるような様子を見せながら頑治さんを、息を詰めたような強張った顔で見上げるのでありました。
「話しが長くなると云う事だから、ここいらでちょっとコーヒーでも淹れてくるよ。何となくその方が手持無沙汰じゃないからね。勿論、飲むだろう?」
 頑治さんは均目さんの警戒心を解すように静かな調子で云うのでありました。
「ああ。コーヒーなら貰うよ」
 均目さんは遠慮しないのでありました。

 横たわる那間裕子女史を挟んで、頑治さんと均目さんは酒酔いのために少し早い目の寝息を立てている女史を、夫々の方向から見下ろしているのでありました。
「疑いを持って聞いていてくれても構わないけど、俺としては社長との関係を拗らせない方が、俺が辞めたとしてもその後も未だ会社が存続する目はあると思ってはいたんだ。社長が労使対立でうんざりして、自棄でも起こしたらそれこそお仕舞いだからね」
 均目さんはそう云ってからコーヒーを一口啜るのでありました。
「会社存続のためにも、社長のご機嫌を取り結びたかったと云う事かな?」
「ご機嫌を取り結ぶ、と云うのはちょっと俺の本意とは違うけど、でもまあ、そう取られても別に構わないけどね。社長の方は土師尾常務よりは話せるところが少しはありそうだから、そこに何とか手を施して会社存続の可能性を残したかったんだ。じきに辞める俺ではあるけれど、これでも会社が無くなる事を避けたいと本当に思っていたんだよ」
「余計なお世話、と云う感じも、ま、するけどね」
 頑治さんはあくまで冷たく反応するのでありました。
(続)
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