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あなたのとりこ 580 [あなたのとりこ 20 創作]

 均目さんはそう云って余裕を見せるためにか片頬に笑いを作るのでありました。ただその笑いなんと云うものは、不用意に油断したり疎かにしたりは出来ないなと云った、頑治さんへの一種の畏怖を宿したような引き攣った笑いになるのでありましたか。
「まあ、俺の認識については一先ず脇に置くとして、でも、均目君の家を出た那間さんが、その後どうして俺のアパートに態々やって来たんだろう?」
「那間さんは俺の家を出た時には、かなり怒っていたからなあ」
 均目さんは直接頑治さんの質問とは無関係な事を云うのでありました。
「何に対して那間さんは怒っていたんだろう?」
「まあ、ちょっと順を追って詳しく話した方が良いかな」
 均目さんは少し語調を改めるのでありました。「俺の家に来た時、那間さんはかなり酒に酔っていたんだよ。まあ、ぐでんぐでんに、と云う感じではなかったけれど」
「那間さんは会社が終わってから俺と袁満さんと、新宿の、均目君とも時々行った事のある洋風のあの居酒屋で飲んでいたんだよ。まあ、二時間くらい」
「そこに袁満さんが居るのが、ちょっと俺にしたら奇異と云えば奇異な感じがする」
「今度予定している会社の全体会議で、ひょっとしたら那間さんが解雇要員としてやり玉に挙げられる可能性があるから、予め那間さんにその恐れを承知して置いて貰うためと、まあ出来たら何らかの対策を考える心算で、三人で会合したんだよ」
「うん、その辺の経緯は那間さんからちょろっと聞いた」
 均目さんは二度程頷いて見せるのでありました。
「ところで那間さんは、何時頃均目君の家に来たんだい?」
「さっきも云ったように十時頃だったかな」
「と云う事は俺と袁満さんと新宿駅で別れたのが八時を回った頃だったから、その後すぐに均目君のところに行ったんじゃなくて、屹度一人で何処かで飲んでいたんだな」
「まあそうだろうな。会社帰りに二時間程飲んだだけの酔い方ではなかったからなあ、俺の家に来た時の様子は。あれはもう結構きている感じだったからなあ」
「均目君と那間さんは、まあ殆ど毎日、どちらかの家で、二人で一緒に過ごしていたんじゃなかったのかな、まあ、会社を出る時間は違っていたとしても」
 頑治さんはちょっと質問の色を変えるのでありました。
「いや、殆ど那間さんの家で週末を一緒に過ごすくらいだったかな。平日は大体はお互いの家で別に過ごしていたんだ。その方が始終一緒にいるより気楽だし」
「と云う事は今日、と云うかもう昨日になるけど、那間さんが均目君のアパートに遣って来たのは、イレギュラーな出来事と云う事か」
「まあそうだね。それに団体交渉の申し入れをした時以来、何となくお互いつんけんしていて、気まずい感じでいたから余計にね」
「ああ、均目君が団体交渉を土師尾常務の意に沿うように、社内の全体会議の方に誘導したあの申し入れね。あの時那間さんはとことん団体交渉派だったからなあ」
「いや別に俺は、土師尾常務に阿た訳では無いよ」
(続)
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