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あなたのとりこ 535 [あなたのとりこ 18 創作]

「そうね。これから先会社をどうしていくかと云う話し合いは、労使交渉でするよりも全体会議としてする方がしっくりいくんじゃないのか」
 土師尾常務はまんまと思う壺、とばかりに均目さんに視線を向けるのでありました。これは拙い方向に流れが出来ようとしていると頑治さんは思うのでありました。その思いは那間裕子女史も抱いたようで、咄嗟に猜疑の目を均目さんに向けるのでありました。
「つまり部外者にはあんまり聞かれたくない、会社運営上の機微に属する事柄も話しの俎上に上げなければならないから、社外の人間にはなるべくこの話し合いに参加して欲しくないと云うことですね、常務の考えとしては」
 均目さんは那間裕子女史の視線を感じたのか感じなかったのかは知れないけれど、土師尾常務とのこの遣り取りを進めるのでありました。
「そう。その方が率直に色んな事が話し合えるし」
「それは、労働組合の元締めたる全総連の人に聞かせては拙い、如何にも労働争議に発展しそうな事を我々に提案する心算だから、と云う事ですね、要するに?」
 那間裕子女史が均目さんに向けた目容をその儘土師尾常務に向けるのでありました。
「部外者が居ない方が真摯な話し合いには何かと好都合だろう」
「ちゃんと従業員の事を考えた真摯な話し合いをするなら、ですけどね、あくまでも」
 那間裕子女史は眉間に皺を寄せて、あからさまな敵意を表するのでありました。「どうせ本気で話し合いなんかする心算は更々無くて、一方的にあたし達に無理難題を押し付けようって云う肚なんでしょう。だから全総連に立ち会って貰いたくないのよ」
「でも、そうだとしても、結局その一方的な無理難題なるものは、後日確実に俺達から全総連に伝わる事になるだろうから、その話し合いの場に全総連の人が居ても居なくても、特に意味は無いんじゃないかな。寧ろ社員だけの方が確かに好都合かも知れない」
 均目さんが静かな口調で那間裕子女史に反論するのでありました。
「いやしかし部外者が居ると居ないとでは、話し合いの節度と云うのか、進行の上で何かとスムーズに行くんじゃないかな。お互い体裁があるから変にカッカとしないで済むし、変に話しが紛糾したり横路に逸れたりしても、客観的な目で仲裁して貰えるだろうし」
 袁満さんが那間裕子女史寄りの言葉を挟むのでありました。
「いや、全総連の人なんだから、結局我々組合側に昵懇の人と云う事でしょう」
 均目さんが袁満さんの方に顔を向けるのでありました。「客観的な目、と云うにはちょっとその目にはこちら側の色が付き過ぎているんじゃないですかね。それに仲裁者として話し合いに参加して貰う気なんか、こちらにはこれっポッチも無くて、あくまでもとことんこちらの援護射撃をして貰う心算で立ち会って貰おうとしている訳ですから」
 均目さんは、これっポッチ、のところで、顔の前で右手の親指と人差し指で微々たる隙間を作って袁満さんに示すのでありました。
「まあ、そう云われるとそうではあるけど。・・・」
 袁満さんは首を竦めるのでありました。この均目さんと袁満さんの遣り取りを聞きながら、土師尾常務はしめしめと云った感じで片頬に笑いを浮かべるのでありました。
(続)
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