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あなたのとりこ 499 [あなたのとりこ 17 創作]

「こう云っちゃ悪いけど、どちらも何だか頼りないわね」
 那間裕子女史は眉根を寄せて見せるのでありました。「日比さんは結構なお調子者と云った感じだしね。何だか今一つ油断ならないところもあるし、結局土壇場で土師尾さんや社長の側にコロッと寝返るような気がするわ。処世術と云う点で手抜かりは無さそうだけど、その手抜かりの無さからうっかり目を離すと寝首を掻かれるような気もするわ」
「じゃあ、袁満さんの方はどうですかね?」
「袁満君は間違いなく好い人なんだけどちょっと気が弱くて、皆をリードしていくような意気込みは感じられないわね。ここが正念場と云う時に決まってあたふたするし、焦れったくなるくらい会話をしていても反応が鈍いし、ピント外れなところがあるし」
「ああそうですか」
 頑治さんもここで眉根を寄せて腕組みするのでありました。「甲斐さんは地名総覧社時代からのキャリアは土師尾常務にも引けを取らないけど、でも、扇の要、と云う役割の点では、会社での在りようとしてちょっと持ち味が違うような気がしますしねえ」
「そうね。確かに甲斐さんは存在感として一種格別よね」
「ああそうだ、肝心な人を忘れていました」
 ここで頑治さんはやおら腕組みを解くのでありました。「那間さんが居ました。どうです那間さん、この際扇の要の役を請け負ってみる気はありませんか?」
「え、あたし?」
 那間裕子女史は自分の鼻先を自分で指差すのでありました。「あたしはダメよ。そんなの柄じゃないし、全然興味も無いもの」
「しかし、結構押し出しも好くてなかなかリーダーの気質もありそうじゃないですか」
「あたしはずけずけものを云うだけで、押し出しが好い訳じゃないわ。寧ろこの口が災いして、皆から疎まれている度合いの方が強いと思うわよ。あたしが扇の要になったら、その扇は開かなくなるんじゃないかしらね。唐目君もそう思うでしょう」
 那間裕子女史は自分の鼻先の指を唇の方にちょい下げて、その後で口のすぐ前でヒラヒラと掌を横に振るのでありました。この一連の動作が、何だか妙に有機的なものに見えるのでありました。これは或る意味で、優雅、と云うべきものではないだろうかと、頑治さんは今現在の話しとは全く関連無くふとそう思うのでありました。
「土師尾常務に急にリーダーとしての自覚が出て来て、今迄の性根を見違えるようにすっかり入れ替えて、扇の要となるべく努力する、なんと云う目は全然ありませんかねえ」
「全然ないわね」
 那間裕子女史は鮸膠も無いのでありました。
「ああそうですか。全然ありませんか。・・・」
 ここで、それはそうだろうなと頑治さんも思うのでありました。そんな事を期待する方がどうかしていると云うものであります。でもしかし、考えて見ればこれが実は一番自然な本筋であり、一番あらまほしきところなのでありましょうけれど。
「そんな事、唐目君だって本気で考えてなんかいないでしょう」
(続)
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