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あなたのとりこ 489 [あなたのとりこ 17 創作]

「ああ、知っている。大学時代の知り合いの紹介とかで、本の編集と雑誌の記事書きと、それから今贈答社でやっているNGRグローブ社の地球儀の地図面作成の仕事も、先方のたっての希望で贈答社から引き継いで遣っていくと云う事らしいね」
 頑治さんはプラスチックコップに入れて出された水を飲むのでありました。「その話しと云うのは、均目君は片久那制作部長本人から直接聞いたのかな?」
 均目さんは一つこっくりをして自分も水を一口飲むのでありました。
「昨日珍しく誘われて、片久那制作部長行きつけの神田の居酒屋で一緒に飲んだんだよ。一体何の話かと思ったら、急にそう云う話しをされたんだ」
 ははあ、と頑治さんは心中で頷くのでありました。片久那制作部長は均目さんにも自分の新しく始める仕事を手伝わないかと誘いをかけたのでありましょう。
「で、贈答社を辞めて、自分の仕事を手伝う気は無いかと打診されたのかな?」
「そう。唐目君にもそう云う話しを今持ちかけている最中だと云っていた」
「ふうん。で、俺はどう云う反応だった、とかは云っていなかったのかな?」
「それは別に聞いていない。打診中だとだけね」
「成程、打診中、か」
 頑治さんはまた水を飲むのでありました。「俺と均目君にそう云う話しがあったと云う事は、那間さんにも働きかけているのかなあ?」
「いや、那間さんには話していないそうだよ」
「那間さんはお誘い無し、と云う事かな?」
「まあ、そんなところのようだね。俺と唐目君を狙い撃ち、みたいだ」
 ここで二人分の餃子定食が無愛想な女店員に依って運ばれてくるのでありました。
「それで、均目君はどうする心算なんだい?」
 餃子の焼いた儘に並んだ皿と丼飯と、それに味噌汁の入ったプラスチック碗が二人の前に夫々配膳されて、店員が立ち去るのを待ってから頑治さんが訊くのでありました。
「魅力的な話しだと思う」
 均目さんは味噌汁を一口啜るのでありました。
「つまり乗り気だと云う事かな?」
「まあそうだね。この儘贈答社に残るよりは、自分の将来像はすんなり描けそうだ」
「それに社長や土師尾常務の下に居るよりは、片久那制作部長の下に居る方が余程頼り甲斐もあるし、安心感もあると云うところかな」
「それも勿論そうだね」
 均目さんは餃子を口に放り込むのでありました。「唐目君はどう思う?」
「まあ、社長や土師尾常務より片久那制作部長の方が、結託するには利がありそうだ」
「何となく棘のある云い方だな」
 頑治さんの顔をまじまじと見た後で、均目さんは少し白けたような、それに警戒するような表情をしてから云うのでありました。「あんまり乗り気ではないのかな?」
「そうねえ、・・・」
(続)
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