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あなたのとりこ 483 [あなたのとりこ 17 創作]

「ああそうですか、刃葉さんがそう云っていましたか」
 頑治さんはここで思いがけない名前が出て来たものだから、幾分懐かしそうに少し頬に笑いを浮かべて見せるのでありました。
「厄介と云うところでは、そう云う刃葉君自身も結構厄介なヤツだったけど」
 片久那制作部長は、ここは屈託なくもない笑いなんぞをするのでありました。

 行程も真ん中辺りに差し掛かったところで、頑治さんがふと思いついたように助手席の片久那制作部長に訊くのでありました。
「片久那制作部長は、会社を辞めた後の仕事とかはもう決まったんですか?」
「まあ、ある程度は」
 片久那制作部長は居住まいを正すように助手席で身じろぎするのでありました。
「良かったら何の仕事をされるのか聞かせて頂けますかねえ」
「学生時代の朋友が出版社とか通信社とかに複数居て、そこから外注と云う形で仕事を貰って、月刊誌のちょっとした記事を書いたり、本の編集を手伝ったり、それに色んな図版とかを作ったりする心算だよ。ああそれから、今の仕事で付き合いのある地球儀メーカーに是非にと頼まれて、そこの地図版編集を請け負う仕事もあるかな」
「地球儀メーカーと云うと、NGRグローブ社ですか?」
「ああそうだ」
 NGRグローブ社と云うのはアメリカの結構有名な地球儀メーカーの製品の、日本語版をライセンス生産している会社であります。そこの編集仕事を一応贈答社が受注すると云う形で、片久那制作部長が専門に製作を請け負っていた仕事でありました。
 その仕事も元々は、片久那制作部方の学生時代の知り合いで出版ブローカーみたいなことをしている人の紹介で始まったもので、片久那制作部長が贈答社を辞めたら、当然自動的に贈答社はお呼びでなくなると云う事であります。要はNGRグローブ社は贈答社とは殆ど何の関係も無くて、片久那制作部長個人と濃く繋がっている訳であります。
「へえ、もう早速今後の仕事の目途は立ったと云う事ですかねえ。流石に有能な人は不測の事態が起こっても、オロオロのほほんとなんかしていないものですねえ」
「いやまあ、そんな訳でも無いが、・・・」
 片久那制作部長は恐らく有能な人と云われた部分に一応の謙遜を見せるのでありましたが、頑治さんはそれを無視してあっけらかんと感心するのでありました。しかし不測の事態が起こったからと云うよりは、片久那制作部長は近い将来贈答社を辞めて、そう云う仕事でこの先独立しようと云う指向を前から持っていたと考える方が自然でありますか。だからトントン拍子で、事後の方便の道が整えられたと云う事でありましょうか。
「それはフリーランスとして、ご自宅を拠点にして遣っていかれるんですか?」
「いや、事務所を借りて会社組織の編集プロダクション、と云う形にする心算だよ」
「じゃあ、新たに会社を興される訳ですね?」
「まあ、そう云う事になるかな」
(続)
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