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あなたのとりこ 450 [あなたのとりこ 15 創作]

 袁満さんが日比課長は良いとしても、社長や片久那制作部長、それに何より土師尾常務が参加する送別会の企画に対して、少し体を斜にして見せるのでありました。その三者が参加すれば和気藹々の雰囲気が削がれると危惧するのでありましょう。
「何より出雲さんが、社長や片久那制作部長、特に土師尾常務も交えての送別会にはちょっと尻込みすると云うのなら、その辺は考慮するべきだとは思いますが」
 出雲さんが土師尾常務と同道した営業仕事の一件で会社を辞す最終決断をしたと云うのなら、それは当然自分の送別会に土師尾常務が同席するのはまっぴらご免と云った心持ちであろうかと考えて、頑治さんは敢えてそんな事をものしてみるのでありました。
「それもそうかなあ」
 均目さんが頑治さんの発言に理解を示すのでありました。
「確かに出雲君としては、土師尾さんの顔を見ながら楽しいお酒は飲めないわね」
 那間裕子女史も同調するのでありました。
「土師尾常務が参加するなら、何時もそうだけど、宴会自体が嫌に白々した雰囲気になりそうだな。それに土師尾常務本人も自分が元々、辞めさせようと秘かに画策してそれを実行したって云う一種の後ろめたさから、出雲君の送別会には出席し辛いだろうし」
 均目さんも会社全体での送別会、と云う理想をトーンダウンさせるのでありました。
「そんなデリカシーなんか、あの人にあるかしら」
 那間裕子女史はその意見には不同意のようであります。「完全な無関心と冷淡から、誘われても誘われなくても、あの人は送別会には出席しないかも知れないわ」
「そうだな。あの人には部下の気持ちを慮ると云う芸当は、逆立ちしても出来ないか」
 袁満さんが皮肉っぽく云って鼻を鳴らすのでありました。「じゃあ、日比さんだけは誘うとして、社員だけで組合主催と云う事で送別会をやるとするか」
「でも、片久那制作部長は誘えば来るんじゃないですかね」
 均目さんがどう云う思いからか、社員だけでと云う線に少しの異論を差し挟むのでありました。確かに片久那制作部長なら誘えば来そうだと頑治さんも思うのでありました。
「まあ、片久那さんなら参加してくれても構わないかな」
 那間裕子女史も承認の意を表すのでありました。「それなら、社長は?」
「社長も誘えば来るだろう。無邪気に酒に釣られて、と云うところだろうけど。まあそれに結構な狸だから、しれっと出雲君にそれっぽい餞の言葉なんか宣いそうだな」
 均目さんが社長のしれっとしたその顔を想像するような目をするのでありました。
「若し片久那制作部長も社長も来るとなったら、自分だけ無視されたと云うんで、土師尾常務が臍を曲げないかな。勝手に臍を曲げるのは良いけど、必ず俺達に露骨に報復をしようとするところがあるから、その辺が後々実に鬱陶しい気がする」
 袁満さんが顔を顰めるのでありました。
「まあ、出雲さんの送別会の内容はその後の諸般の事情やら推移に鑑みて、組合主催でやるかそれとも全社的にやるか決めるとして、この儘片久那制作部長と土師尾常務が夕方迄社長室から出てこないなら、今日の午後の仕事に何か差し障りがあるかな?」
(続)
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