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あなたのとりこ 413 [あなたのとりこ 14 創作]

 袁満さんが先に電話を切るのを待ってから頑治さんが受話器を架台の上に戻すと、それとほぼ同時に夕美さんが言葉を発するのでありました。
「明日何処かに出掛けるの?」
「うん。会社で一番歳若の人が突然会社を辞めると云うんだよ。で、どうして急にそう云う決断をたのか、明日直に逢って聞き質す事になったんだよ」
「今のはその人からの電話?」
「いやそうじゃなくて、辞めると電話をしてきた当人の先輩格の別の人。その先輩格が当人に逢って話しを聞くから、一人じゃ心細いので一緒に居てくれと云う事なんだ」
「ふうん。明日は用事が出来たって事ね」
 夕美さんの声が如何にも不機嫌そうに変化するのでありました。「折角久し振りに東京に出て来たあたしを放って置いて、別の用事を今の今、態々作った訳ね」
「そう云う意図じゃ更々ないけど、でも、申し訳無い」
 確かに外形的にはその通りであるから、頑治さんは夕美さんから目を逸らしてしおらしく項垂れるのでありました。すぐに電話を折り返して矢張り明日は行けないと袁満さんに断りを入れようかと思うのでありましたが、それも何となく不細工な話しであります。
「まあ、仕方が無いわ」
 夕美さんが少しは緩んだものの未だ不愉快さを宿した声で呟くのでありました。「何だか無神経に断れそうもない、緊急事態、と云った感じみたいだから」
「申し訳無い」
 頑治さんは先程と同じ言葉を恐縮の色を一層込めて繰り返すのでありました。「その代り用が済んだら一目散に帰って来るよ」
「何処で何時に待ち合わせしたの?」
「池袋の喫茶店で午後二時からと云う話しだよ」
「それで話しは、見込みとしてどのくらいで済むのかしら?」
「一時間か、まあ、もう少しかかるかも」
「じゃあ、話しが終わる頃に池袋にあたしも行こうかしら。前に池袋でデートした事なんか多分無かったから、それも面白いかも知れないわよ」
「池袋でデートねえ。・・・」
 確かに二人共通の場所として、池袋と云う街には今迄殆ど縁が無かったと云えば縁が無かったのでありました。まあ、頑治さんは偶に一人で、随分前の事ではありますが池袋演芸場に落語を聴きに行った事はありましたが、それもほんの数度の事でありましたか。
「サンシャイン水族館とか云ってみるのはどうかしら」
「サンシャイン水族館、ねえ。確かにこれ迄行った事はないけど、でもそれはつまり敢えて行きたいと思った事もないと云う事ではあるんだけどね」
「それから高層ビルのレストランで夜景を見ながら食事、とかさ」
「まあ確かにそれも悪くないけど、何となく池袋と云う街には馴染みが薄いからなあ」
「だから、寧ろ好都合と云う訳じゃない」
(続)
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