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あなたのとりこ 414 [あなたのとりこ 14 創作]

「じゃあ、そうするか。午後二時から丁度一時間で切り上げて、駅の地下街で三時に待ち合わせと云う感じで良いかな。あんまり池袋駅の構内事情を知らないから、どこかの改札口辺りを待ち合わせ場所にすると判り易いかな」
「一時間で話しは終わるかしら?」
「何が何でも切り上げるようにするよ。この後大事な用があるからとか云って」
 頑治さんとしては夕美さんの不興と我慢へのせめてもの慰撫として、一時間以内で袁満さんと出雲さんとの話しはきっぱり切り上げる心算なのでありました。
「ところで、池袋駅は改札口ってあちこちにあるんじゃないの?」
「ああそうだな。地理不案内なら返ってまごまごしそうだな」
「だったら西武百貨店の正面玄関、とかなら何となくちゃんと落ち合えそうかな」
「俺としては間違いない場所と云うなら池袋演芸場の前とかの方が確かだけど、でもそれじゃあ夕美の方が良く判らないだろうからね、あの辺はゴチャゴチャしているし」
「そうね、池袋演芸場なんて知らないわ」
「じゃあ矢張り西武百貨店の正面玄関前、と云う事にするか。何となく池袋での待ち合わせ場所としては、変な云い方だけど、嫌に素人っぽい感じではあるけど」
「映画館の文芸坐は知っているわよ。こっちの方が通っぽいかも」
 夕美さんが頑治さんの軽口に調子を合わせてくれるのでありました。
「そこは俺が知らない。名前は聞いた事があるけど」
「じゃあ、西武百貨店にする方が、ずぶの素人の待ち合わせ場所としては無難かな」
 池袋での待ち合わせに於いて、素人だろうが通だろうが別にどうでも良いと云えばどうでも良い事でありますけれど、ま、そう落着するのでありました。
 頑治さんは夕美さんに臍を曲げられなくて良かったと思うのでありました。お返しに夕食はうんと奮発するしかないとも考えるのでありました。

 立教大学の図書館が見える辺りにあるその喫茶店に少し迷った上で、ほぼ時間通りに到着してみると袁満さんと出雲さんはもう来ているのでありました。出入り口近くの四人掛けのテーブル席に向かい合わせで座っていたから、すぐに見つけるのでありました。
「よお、お疲れさん」
 袁満さんが片手を挙げて見せるのでありました。「ここはすぐに判ったかい?」
「ええ。立教の図書館を目標に来たら、意外にすんなりと来る事が出来ました」
 頑治さんは袁満さんの横に腰を下ろすと、水とおしぼりを運んできた学生アルバイト風のウェイトレスにホットコーヒーを注文するのでありました。
「お休みだと云うのに俺のために態々済みませんっス」
 出雲さんが頭を掻きながら真顔で、頑治さんに向かって首をヒョイと前に出すような仕草で礼をして見せるのでありました。
「いやまあ、別に大丈夫ですよ。ただ一時間くらいしか居られませんけど」
 頑治さんは夕美さんの顔を頭の隅に思い浮かべながら首を横に振るのでありました。
(続)
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