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あなたのとりこ 377 [あなたのとりこ 13 創作]

 全くの正論でありますか。しかしこれが後に出雲さんを思わぬ窮地に陥れる一言になるとは、袁満さんにはこの時点で考えだにしない事なのでありました。
「私は別に特注営業に関して全く指導をしようとしない訳じゃないし、出雲君の新しい仕事に関して冷淡と云う訳でもない。そんな事は当たり前じゃないか」
 土師尾常務は袁満さんに敵意剥き出しの視線を向けるのでありました。「ただ、その役目は、先ずは日比君の役目と云う事になるから、控えていただけだ」
「出雲君の直接の上司は日比課長だから、日比課長に任せていると云う訳ですね」
 均目さんがここで徐に顔を上げて、土師尾常務に向かって今の言をもう一度聞き質すような言葉を発するのでありました。
「それが筋だからね」
 土師尾常務は憮然とした顔をしで腕組みをするのでありました。
「山尾主任が会社を辞めたから、日比課長はその後始末やら何やらで、今に至るまで新しい地方特注営業と云う仕事に就けないでいるんですよね」
 均目さんは土師尾常務の顔に視線を留めた儘クールな語調で聞くのでありました。
「まあ、忙しくて全く手も足も出ない、と云う訳ではないけどね」
 ここで日比課長が横からそんな事を喋り出すのでありました。
 土師尾常務に釘付けていた視線を均目さんは反射的に日比課長の方へちらと動かして、すぐにまた土師尾常務の顔へ戻すのでありました。無表情ではあるものの日比課長に対して、貴方に訊いているのではないからつまらない口出しは控えてくれ、と些か迷惑に思ったような色が均目さんの頬骨の辺りにほんのり浮かぶのでありました。
「日比課長がなかなか出雲君をフォロー出来ないのなら、常務がその仕事を肩代わりしても別に構わないじゃないですか。そんな大会社じゃあるまいし、常務として多くの社員の仕事に目を光らせている訳でもないんだから、杓子定規に、筋だから、とか云って呑気にしていないで、日比課長の手が回らないようなら自ら手伝っても良いでしょうよ」
 均目さ日比課長の言を一先ず無視してそう続けるのでありました。しかしそう続けてみるものの、日比課長の余計な科白が混入したせいで、計量していた自分の言葉の鋭さとその迫真力がぼんやり半減して仕舞った結果には、大いにがっかりと云ったところでありましょうか。不謹慎ながら頑治さんは心中で少しの微笑ましさを覚えるのでありました。
「何だ、均目君は僕が仕事をサボっているとでも云いたいのか!」
 それでも土師尾常務の怒気を誘い出すには充分の迫真力だったようであります。
「営業部全体の効率の問題を云っているんですよ」
 均目さんは内心の秘かながっかりを励ましてたじろがずに抗弁するのでありました。
「そんな事は態々均目君に云われる迄もなく、僕も常日頃から考えているよ」
 土師尾常務の眼鏡の奥の目が相当の剣幕で吊り上がるのでありました。
「常日頃から考えているけど、実行は億劫でなかなかしないと云う訳だ」
 日比課長の邪魔な一言が秘かに内心では結構応えたためか、日頃に無く均目さんの語調が険しさとぞんざいさを増すのでありました。
(続)
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