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お前の番だ! 566 [お前の番だ! 19 創作]

「あゆみとの話しではなかなか殊勝に、真摯に、はたまたそれなりの覚悟を持って、常勝流の将来の事を只管考えている感が大いに伝わってきましたよ」
 またまた寄敷範士に交代でありますが、まるで芝居の台詞割りのようであります。「あゆみの常勝流の将来を一途に思うその心根に、私なんぞは強く打たれました」
 これは寄敷範士の聞き及んだあゆみの了見に対するかなりの修飾的言辞であると云うべきでありますか。実際のところは両範士との話しであゆみは単に、宗家になるのは絶対嫌だと只管無愛想に聞き分けのない子供のように云い募っていただけでありましたから。
「で、折野の方だが、・・・」
 ここでまた鳥枝範士の登場であります。「ワシは大体が血統主義で宗家はあゆみが継ぐのが妥当とずっと考えていた。しかしあゆみの固辞の意志が鉄のように硬くてどうしても首を縦にふろうとしない。ワシはあゆみが子供の頃からその円らな目でじっと見つめられてお強請りされると、どうにも腰砕けになってなあ、竟々云う事を聞いてやりたくなると云う悪い癖があるのじゃが、まあ、今回もまた敗北の憂き目にあったと云うわけだ」
 鳥枝範士はそう云ってあゆみの方を見て咳払いを一つするのでありました。「折野は総士先生の内弟子を長く真面目にやってきたヤツで、その篤実な努めぶりは皆も知っての通りだ。それになかなか目端が利いているから総本部の運営も今ではあゆみと一緒に立派に担っておる。興堂派の分裂解体に際しても穏当で、しかもなかなかの敏腕をふるって対処に奔走して、大方から恨まれるような事もなく総本部の所帯を大きくした張本人だというのも皆の知るところだろう。鳥枝建設に幹部候補生として引き抜きたいくらいの男だ」
 ここで理事連から鳥枝範士の軽い冗談に対して笑いが起こるのでありました。
「折野の武道の実力の方も、皆さん既によおくご存知でしょう」
 この先は再び寄敷範士の出番であります。「門下生達の受けも今では総本部で随一だ。この儘精進すれば将来間違いなく一廉の武道家になるでしょう。折野の技には華があるから大向うを唸らせる事も出来る。常勝流の中に在っては、なかなか稀有な人材ですよ」
 この寄敷範士の言葉を聞きながら万太郎は消えも入りそうになるのでありました。先のあゆみへの修飾的評言と同じでありましょうが、それにしても褒め過ぎであります。
「だからワシは、ここは一番、血統主義を棚上げする事にした」
 鳥枝範士がまた代わるのでありました。「折野なら、当代是路総士の次を懸念なく任せられるだろう。まあ、折野とあゆみが結婚して子を儲ければ、折野のそのまた次の代には、再び是路家の血が復活する事にもなるだろうからなあ」
「どうですかな、この私からの提案を、既定路線としてご承認いただけますかな?」
 鳥枝範士と寄敷範士の代わり番この弁舌が一段落と踏んだ是路総士が、椅子から立ち上がって理事連を見渡しながら尋ねるのでありました。
「総士先生のご意志とあらば、我々に異論なんぞはありません」
 参集理事連中の一番の古株で、以前に調布市の中学校の校長やら市の教育委員等の要職を歴任していた事もある、牛路伊達輔と云う名前の御年八十になる仁が声を上げるのでありました。この御大は若い頃に先代宗家に常勝流を習った事のある人でありました。
(続)
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