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お前の番だ! 565 [お前の番だ! 19 創作]

 万太郎とあゆみの結婚に関しては、万太郎が是路家に養子に入ると云う点を確認出来た時点で、特段の反対意見は出ないのでありました。当人同士がそうしたいのならあゆみの父親たる是路総士が許せば、当然ながら是路家内の問題でありますから、それはそれで理事連のとやこう云うべき筋ではないというのが大方の意見でありましたか。
 万太郎が婿養子に入る件は、既に熊本の万太郎の両親及び親族からは快諾が得られているのでありました。父親は万太郎が長男ではないと云う事もありますが、元々家系の連続と云うものに余り重きを置かない考えの人でありましたし、母親の方はと云えばこんな盆暗息子で本当に良いのかと、逆にあゆみや是路総士に恐懼の態を示すのでありました。
 しかし将来宗家を万太郎が継ぐと云う件に関しては、やや陰鬱な空気が会議室の天井辺りに蟠るのでありました。矢張り万太郎が是路家の血の外の人間だと云うのが、理事連の戸惑いとか及び腰とか座り心地の悪さとかを誘発したようでありました。
 あゆみではなく万太郎であるための妥当な理由が存しなければならないのでありましょうが、それはあゆみの固い忌避の意志と是路総士の、愛娘に苦労をさせたくないと云う親心が主たるが理由で、これは常勝流のためと云う公的理由よりは個人的意向と云うものでありますから、理事連を前に憚りもなくそれを声高に云い募るわけにはいかないのでありました。まあ、是路総士が声高に云えば、それはそれで通りはしたでありましょうが。
 ここで登場するのが常務理事たる鳥枝範士及び寄敷範士の意見でありました。
「ワシも総士先生からそれを聞いた時は、実はちょっと考えた」
 鳥枝範士が云うのでありました。「折野は是路の血を受けていないのだから、宗家に収まるには問題があるんじゃないかとな。横に座っている寄敷さんも同じ感想だった」
「代々のご宗家はこれまで、皆さん是路の血統のお方だったですからねえ」
 寄敷範士が同調理由を述べるのでありました。
「そこでワシと寄敷さんで色々協議したわけだ」
 鳥枝範士が続けるのでありました。「当初は総士先生の実の娘であるあゆみが宗家を継ぐのが筋じゃないかと思ったのだが、古武道に限らず様々の武道の世界では、これは旧弊と云われるかも知れないが、女が一派の総帥となるのは色々小難しい体裁上の問題があるのも現実ではある。そうする事で一気に流勢が衰微して仕舞った例も確かに存在する」
「そこで、あゆみと折野の結婚は、それは認めるとしても宗家の継承問題に関してはすぐに結論を出さずに、暫く様子を見ると云う形にしようかと云う話しになったのですよ」
 寄敷範士が後を引き取るのでありました。「しかし当代宗家の一人娘たるあゆみの結婚であるから、将来に対する色んな人達のつまらぬ憶測やら見当違いの思惑が跋扈する可能性だってあります。ですからここはあゆみの結婚と同時に、将来の宗家の継承問題に関してもはっきりした方針を示しておく方が、全く無難ではあるのもその通りです」
 居並ぶ理事連が尤もであると個々夫々に頷くのでありました。
「で、当のあゆみの了見と総士先生のご真意を二人で確認に及んだわけだな」
 また鳥枝範士が喋り手を代わるのでありました。「あゆみは、矢張り自分が女である事に大きに危惧を有していて、流派のためにも頑強に宗家継承を辞す心算のようだった」
(続)
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