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お前の番だ! 488 [お前の番だ! 17 創作]

「そうですね。・・・花司馬先生から頑なさと声の矢鱈に大きいところを引いて、穏やかな表情と静かで落ち着いた喋り方を足したような感じですかねえ」
「ふうん」
 あゆみはこの万太郎の判るような判らないような解説に、無抑揚な声で返事をするのでありました。「田依里さんは花司馬先生と同い歳くらいの人?」
「多分同年配だと思います。まあ、雰囲気としては花司馬先生と似ているところもあり、似ていないところもあり、と云った感じですねえ。体格とかは似ていますが」
 万太郎は無意味に、曖昧さを余計につけ足して仕舞うのでありました。
「そう聞いただけじゃ何となく為人が、今一つはっきりしないわね」
「想像するよりも、あゆみさんもその内八王子に指導に行った折に逢う事もあるでしょうから、その時にでもご自分の目できっちり確かめてみてください」
「あたしも居酒屋とかに誘われるのかしら?」
「多分そうでしょうね。来間も誘われたくらいですから」
「ところで、堂下君は前に比べて随分と変わったわね」
 あゆみが堂下の事に話しを移すのでありました。
「そうですね。興堂派で内弟子をしていた頃より何となく佇まいが堂々としてきましたね。道分先生のご逝去以来あいつも色々あったでしょうから、鍛えられたのでしょう」
「そうね。確かに逞しくなったわね」
「田依里さんと出会ったのも、堂下の変貌に大きく作用しているようです」
「へえ、そうなんだ」
 あゆみが少し瞠目するのでありました。
「道分先生が亡くなって以来、ようやく信頼出来る人に巡り逢ったような気がする、なんて僕にちらっと云っていましたから」
「堂下君にそんな事を云わせる田依里さんに、あたし益々興味が湧いてきたわ」
 あゆみはそう云って万太郎に含みのあるような笑みを向けるのでありました。万太郎としてはそんなあゆみの様子が面白くない気もしないでもないのでありました。
「ま、八王子の稽古後に居酒屋に誘われた時に、ご自身の目でしっかり田依里さんの為人を観察してください。その方が僕がここで色々云うより確かだし」
 万太郎は然程はっきりではないにしろ、今までの話しぶりよりは多少突慳貪にそう云ってコーヒーカップを取り上げるのでありました。その時万太郎はあゆみの顔から目を離したので確とは判らなかったのでありますが、万太郎のその反応に、あゆみが少しく満足気な笑み等を浮かべたような風情が目の端にちらと映り過ぎるのでありました。
「この頃少年部の会員が増えたわね」
 あゆみが話頭を変えるのでありました。
「そうですね。常時の稽古の人数が二十人以上になりましたかね」
 万太郎はコーヒーカップを受け皿に戻して、あゆみの顔に目を戻すのでありました。
「あそこまで増えると道場が手狭に感じるわね」
(続)
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