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お前の番だ! 433 [お前の番だ! 15 創作]

「お、子供用の稽古着ですか」
 お父さんの花司馬教士の方が喜ぶのでありました。
「小学校入学の時の学用品なんかも考えたのですが、それはまた別の折りとして、万ちゃんと相談してこんな物にしたのです。剣ちゃんは玩具とかの方が良かったかしらね」
「いやいや、何よりです。有難うございます」
 花司馬教士の方が明らかに剣士郎君よりも喜んでいるようであります。
「剣ちゃんは、本当は何が欲しかったのかい?」
 ビニール袋を両手で抱えた儘、そんな物を貰って、些か戸惑いの表情になって仕舞った剣士郎君に万太郎が訊くのでありました。
「サンダーバード二号」
 剣士郎君はそう云って万太郎を見るのでありました。
「ああそうか。じゃあ、それはまた後で買ってあげるよ。でも、剣ちゃんはサンダーバードなんて、そんな古い人形劇を良く知っているなあ?」
 万太郎は子供時分に見ていたテレビ番組を思い出しながら訊くのでありました。
「今、夕方に再放送でやっているのよ」
 剣士郎君の代わりにお母さんが謎解きするのでありました。
「ああそうですか。僕が子供の頃に見ていた番組です。僕としてはその前のスティングレーと云う潜水艦が出てくる海底大戦争の方が、実は好きでしたけど」
「ああ、海底大戦争は自分も知っています。その前、或いは前の前の、スーパーカーも」
 花司馬教士が乗ってくるのでありあました。
「スーパーカーと云うのは、僕は知りませんね」
 万太郎はそう云って横のあゆみを見るのでありました。
「あたしも知らないわ」
 あゆみが万太郎に少し眉を上げた表情で云うのでありました。
「ああそうですか。スーパーカーはちと古過ぎましたかな。・・・まあそれは良いとして、おい剣士郎、ちょっとこの稽古着を着てみろ」
 花司馬教士はビニール袋を受け取って、稽古着を取り出すのでありました。剣士郎君は促される儘立ち上がると、イニシャル入りの白いカーディガンを脱ぐのでありました。
「あ、剣ちゃんすごく強そう」
 花司馬教士に着せてもらった稽古着姿の剣士郎君を見て、あゆみが大袈裟に感嘆するのでありました。そう云われて剣士郎君も満更ではない顔をするのでありました。
 ケーキで汚されるといけないからと云うので、剣士郎君はすぐに稽古着を脱がされるのでありました。剣士郎君は一応万太郎とあゆみへの義理を果たしたと云った顔で、心置きなくすぐに切り分けられた自分のケーキの方に齧りつくのでありました。
 ケーキとコーヒーで一頻り歓談してから、万太郎とあゆみは花司馬教の家を午後三時少し前に辞するのでありました。未だ斜陽迄に少し時間があるので、満ち足りた腹を少し熟そうと、あゆみが実篤公園辺りまでの散歩を提案するのでありました。
(続)
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