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お前の番だ! 422 [お前の番だ! 15 創作]

 この頃総本部では日曜日の総ての稽古が終わった後で、是路総士以下指導部のメンバーで食事をする慣わしが何時からか定着しているのでありました。この席で各指導員の次週のスケジュールの確認や、各曜日の指導技の決定、その他準内弟子連中の評定、何か特に提起する事項があった場合はその話しあい等がなされるのでありました。
 師範控えの間に総勢七人が集合するのでありましたが、座卓一つでは頭を寄せ集めきれないので、母屋から小ぶりの円卓が持ちこまれて、そこには堂下と花司馬教士が座を取るのでありました。万太郎は堂下と伴に円卓に座る心算でありましたが、序列を尊ぶ花司馬教士に座卓の方に追い立てられたので、何時もそこの一番末席に座るのでありました。
「花司馬のところの一人息子はぼちぼち学校に上がる歳だろう?」
 寄敷範士が取り寄せた寿司を口に運びながら、花司馬教士に訊くのでありました。
「押忍。来年から小学生です」
「ああもう、そんな歳になるか」
 是路総士が鳥枝範士から猪口に酒を受けながら云うのでありました。
「この前道場に遊びに来ていましたよ」
 あゆみが鳥枝範士に酌をするために徳利を取り上げて云うのでありました。
「ああ、道場の廊下から中を覗いていたので、内弟子控え室に連れて行って、あゆみさんと、それにジョージと山田が色々遊んでやっていましたね」
 万太郎が隣のあゆみの猪口に酒を注ぎ入れるのでありました。
「小学生になったらぼちぼち稽古をやらせてみようかと思っております」
 花司馬教士が堂下に酒を注いでやるのでありました。堂下は大いに恐縮した態でその酌を猪口に受けるのでありました。
「へえ、それは楽しみですね。もし稽古するようなら、あたしがつきっ切りで面倒を見ますよ。剣ちゃんは眉がきりっとしていて、そこがまた可愛いですよね」
 あゆみが云うと花司馬教士は嬉しそうな顔をするのでありました。この、剣ちゃん、と云うのが花司馬教士の息子の愛称で正しくは、花司馬剣士郎、と云う名前であります。
「行く々々は内弟子に取って貰おうと思っておりますが」
「おい花司馬、もうそんな事まで考えているのか?」
 寄敷範士が花司馬教士のせっかちを笑うのでありました。
「こればっかりは、本人がその気にならなければどう仕様もない。それにその気になるかならないかが判るまでに、未だ相当の年月が経たなければならんがなあ」
 是路総士も笑うのでありました。
「今の内から道場に来させていれば、自然に自分は総本部の内弟子になるものと思いこむだろうと云う父親の計略です。ま、上手くゆけば、と云う事ですが」
「目出度く将来内弟子になるとしたら、剣ちゃんは来間の弟弟子になるわけだ」
 万太郎が云うと、来間は口に入れた酒を思わず吹き出しそうになるのでありました。
「ああそうですね。それじゃあ来間君、よろしく頼みますと今から云っておきます」
 花司馬教士はしごく真面目に来間にお辞儀するのでありました。
(続)
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