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お前の番だ! 421 [お前の番だ! 15 創作]

 この興堂流の、第一回道分興堂杯争奪自由組手選手権大会、には招待状等も来なかったので総本部からは誰も行かないし、ほとんど無視と云う風でありましたか。若し招待状でも来たなら、足は運ばないまでも総本部として花を贈るくらいの愛想はせざるを得ず、そうなればそれはそれで、その花を貰ったと云う実績を、どう使うかは別として、興堂流にとっては何かしらの利用可能な材料を得る事にもなったでありましょうに。
 その辺のしたたかさはないようでありますから、若しプロデューサー的な何者かがついているとしても、その手腕は殊更大袈裟に注意すべきとするに足らずと云うところでありましょうか。政界の寝業師と呼ばれる会長にしたところで、先読みの効く気配りなんぞはしないのかしらと、万太郎は余計な心配等を竟、して仕舞うのでありました。
 総本部の主立つ者は誰も行かないのでありましたが、門下生の何人かは好奇心から会場に足を運んだようでありました。旧興堂派から移って来た宇津利もその一人で、同じく鞍替え組の仲間と様子を見に行って、それを万太郎に報告してくれるのでありました。
「まあ、支部に強制動員をかけたからでしょうが、先ず々々盛会、と云う体裁は整っていました。と云っても一般の観客は少なくて、門下生やその係累等が殆どでしょうが」
 宇津利はそう云って万太郎にその折貰ったパンフレットを見せるのでありましたが、コート紙にカラー印刷で、伴表紙のB五判二十四頁を中綴じにした中々立派なパンフレットでありました。表紙には興堂範士の在りし日の写真が印刷してあるのでありました。
「出場選手はどのくらいだったのだろう?」
 万太郎はパンフレットをパラパラと捲りながら訊くのでありました。
「開会式での会長の挨拶でも触れていましたが、百名余との事でした。各支部から三人ずつ出せば、そのくらいにはなるでしょうね」
「それがトーナメント形式で試合をやるわけか」
「そうです。三分間戦って原則一本勝ちで勝敗が決まると云う事でしたが、・・・」
 宇津利はパンフレットにも記述してある試合ルールを説明するのでありました。
「でしたが、・・・何だい?」
「何と云うのか、殆どはどつく蹴るの勝負で、投げ技なんか先ずありませんでしたね」
「まあ、試合となると、大方そうなるだろうな」
「それに出場選手は興堂流の門下生だけではなく、他武道他流派の参加もOKと云う触れこみでしたから、主に実戦空手系の選手でしょうが、何人か参加していましたよ」
「へえ。何処かの団体がやっているオープントーナメント、と云う感じかな」
「ま、それを真似たのでしょうがね。しかしそのルールと云うのが、・・・」
 宇津利はそう云って苦笑して見せるのでありました。万太郎は宇津利とその後幾らか話をして、宇津利の申し出でパンフレットを貰ってから話しを切上げるのでありました。
 万太郎は宇津利の他に、興堂流の大会を見に行ったと云う何人かの門下生からも、それ程積極的にと云う風ではないにしろ、あれこれ情報を得るのでありました。万太郎だけではなく花司馬教士も堂下も、そえにあゆみまでもが、夫々の興味の方向や度合いの強弱はあるにしろ、その大会の情報を仕入れているようでありました。
(続)
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