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お前の番だ! 423 [お前の番だ! 15 創作]

 来間はその花司馬教士の態度に慌ててお辞儀を返すのでありました。これで花司馬教士の来間に対するずっと将来の挨拶万端が、今から調ったわけであります。
「ところで、この前開催された興堂流の、何とか選手権、と云うのはどういう有様だったのかな。鳥枝さん、佐栗理事辺りから何か聞いているかい?」
 寄敷範士が鳥枝範士に一献差しながら訊くのでありました。
「まあ、それなりに人は集まったようだな。しかし支部に動員をかけた分が集まったと云うだけで、一般人の観客な少なかったようだよ」
「乱稽古の選手権試合、と云う趣旨だったのだろう?」
「興堂流では乱稽古と云わずに、自由組手と云っているらしい」
「何やら空手みたいだな」
「支部に出場者を予め割りふって、百人くらい選手を集めて体裁を整えたという話しだ」
 この辺までは万太郎の仕入れた情報と符合するのでありました。
「その出場選手ですが、どうやら出場料を取られたようですよ」
 花司馬教士がそんな情報を披露するのでありました。
「出場料を払って、有難く試合に出させて貰った、と云うわけか?」
 寄敷範士がそう云ってから猪口を空けたので、万太郎はすぐに徳利を取って酒を注ぎ差すのでありました。出場料の話しは、万太郎は今初めて聞くのでありました。
「出場料ばかりか、見に来た客から観覧料も取ったと云う話しだ」
 鳥枝範士が後を引き取るのでありました。
「有料と云うのなら、それは一般の観客は来ないだろうな。空手の極真会館とか合気道の或る団体みたいに世間に一定の知名度があるわけじゃないからなあ、興堂流は」
「そう。寄敷さんの推察通りで、無謀と云えば無謀な試みだな、観覧料を取ると云うのは。だから案の定、一般は殆ど興味を示さなかった。色々宣伝は打ったようだが」
「各支部には、観覧人数の割り当て迄あったと聞いています」
 花司馬教士が補足するのでありました。
「支部も良い迷惑だな、それは」
 寄敷範士は呆れ顔を作って花司馬教士を見るのでありました。
「支部毎に、販売する観覧チケット枚数のノルマが決められたらしいです」
「それは、何処かの売れない劇団とかの販売手口を真似たのだろうなあ」
「まあ、そんな了見でしょう」
「つまり売れなかった分は、支部が被ることになるわけだ」
「支部も、そんな厚かましい要求をよく黙って呑んだものだと思います」
「あまり強引な事をしていると、またぞろ離脱するところが出るんじゃないか?」
 寄敷範士がそう云いながら鉄火巻きを箸で摘むのでありました。
「しかし会長のお達しであるとか、今頃総本部の方へ移ろうとしても既に時宜を逸しているから断られるだけで、それに若しそんな真似をすれば興堂流からも破門とするからその心算でいろ、とか云う威治の脅し紛いが利いているから従うしかないと云う話しだ」
(続)
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