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お前の番だ! 417 [お前の番だ! 14 創作]

 こうやって出張依頼のあった新加盟支部の総てを一通り巡回するのに、半年程の時間を要するのでありました。当然新加盟団体への出張指導専門に動くわけではなく、総本部の元々の支部にも定期指導に赴くし、勿論総本部道場の指導も滞らせる事は許されないのでありますから、この間万太郎は体が幾つあっても足らないと云う感じでありましたか。
 総本部道場への新入会員数も急増するのでありました。これも当然旧興堂派の離脱者の入会が多いのでありますが、その中には万太郎が出稽古に行っていた頃の顔見知りも多いのでありましたし、巨漢で好漢の目方吾利紀の顔もその中にあるのでありました。
 その目方の情報に依れば、元々からの興堂範士の内弟子である板場と堂下は技法の大幅な変更とか、乱稽古一本槍の稽古法に内心すっかり辟易していると云う話しであります。興堂流を辞める気もあるようでありますが、何となく時宜を逸したような按配で、ずるずるとその日その日の課業に追われていると云ったところの様であいましょうか。
「要するに威治宗家に良いように扱き使われている、と云ったところでしょうね」
 目方はそう云ってから苦々し気に口を歪めるのでありました。「まあ、板場さんは亡くなった道分先生への忠義立てと云う面が大きくて、もう一度何とか元の興堂派のような賑わいをと期する気持ちの張りがあるようだけれど、堂下君はもう、すっかり腐って仕舞って、何につけても投げ遣りな風になっていましたよ」
 目方から堂下の事を聞いて、万太郎は遣る瀬ない思いに駆られるのでありました。前はまるで弟のように、自分に懐いていた堂下なのでありましたから。
 また旧興堂派から移って来た者には、嘗て筆頭教士として興堂範士の次席で指導に当たっていた花司馬教士が、是路総士や鳥枝、寄敷両範士にならまだしも、当初は稽古で万太郎やあゆみに対しても助手みたいな立ち位置をとっている事が、かなり違和感を以って見られていたようでありました。総本部に移ったのは良いけれどそのために花司馬教士は前の処遇からすれば、すっかり冷遇されているかのように見えたとのでありましょう。
 しかしここは花司馬教士が溌剌と稽古に臨んでいる姿から憶測が妙な風には発展しないのでありました。花司馬教士自身も心機一転、範士補と云う厚遇を辞退して、一介の教士として努めさせてくれと自ら願ったのだと、訊かれれば公言するのでありました。
 新加盟支部の巡回指導が一通り終わった半年後辺りで、花司馬教士の方も万太郎とあゆみと同格に、総本部での中心指導を任されるようになるのでありました。その頃はもうすっかり総本部の技法と指導法が身についていて、新しい指導者として、旧興堂派から移って来た者は勿論の事、前からの総本部の門下生の間でも人気があるのでありました。
 しかしだからと云って花司馬教士はその四角四面好きの性格から、謹恪な態度を決して崩す事なく、相変わらず万太郎とあゆみは先生づけで呼ばれてたじろがされているのでありました。来間は、来間君、と、ちゃんと格下げして貰っているようでありますが。
 鳥枝範士と寄敷範士は時々面白がって万太郎とあゆみを先生づけで呼ぶようになるのでありましたが、これは明らかに花司馬教士の真似をして喜んでいるのであります。冗談とは云え、万太郎もあゆみもそう呼ばれると何時も悄気た顔になるのでありましたし、それがまた面白いのか両範士はこのからかいをなかなか止めないのでありました。
(続)
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