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お前の番だ! 171 [お前の番だ! 6 創作]

 受付にあゆみと並んで座っていると、暫くしてから豪勢なアレンジ花篭が届くのでありました。万太郎が何気なく添えられたカードに目を遣ると、そこには、祝 書道展、の文字の横に、興堂派道場の威治教士の名前が大書してあるのでありました。
「あら、威治さんからの花篭じゃない」
 あゆみが驚くのでありました。「書道展の事、どうして知ったのかしら?」
「さあ、どうしてでしょうかね」
「お父さんが何かの折に道分先生にでも話したのかしら?」
 あゆみは首を傾げるのでありました。それでも花が贈られて来た事自体は嬉しそうで、色取り々々の大輪小輪取り混ぜた花が我勝ちに自己主張する花篭を、瞠目の瞼の開きをそのままに、時々瞬きも織り交ぜながらひとしきり眺めているのでありました。
「何処に置きますか?」
「そうね、・・・」
 あゆみは椅子から立ち上がって場内を見回すのでありました。「あそこの壁際に椅子が並べられている横の、白いクロースのかかった台の上が空いているから、あそこでいいかしらね。あそこ以外にこの大きな花篭を置く場所も見当たらないし」
 あゆみは奥まった辺りの壁を指差すのでありました。
「それじゃあ、運んでおきます」
「お願いね。あたしは大岸先生に威治さんから花が届いた事を報告しておくわ」
 あゆみはそう万太郎に云い置いて控え室の方に姿を消すのでありました。
 その威治教士でありますが、午前十一時の開場早々に書道展に姿を現すのでありました。ガラスの扉を押して入ってきた威治教士は、受付に座った万太郎と先ず目があうのでありましたが、瞬間険しい眼色を万太郎に送って寄越すのでありました。
 どうして手前如きがそこに座っているんだと云う興醒めた思いと同時に、万太郎の顔が書道展に在る事の意外に少したじろいでいる風情も、その目は宿しているのでありました。万太郎は礼儀から、椅子から立ち上がって威治教士にお辞儀するのでありました。
 威治教士は万太郎のお辞儀をすっかり無視して、横に座っているあゆみに笑いかけるのでありました。あゆみも愛想の笑いを浮かべて立ち上がるのでありました。
「書道展、おめでとうございます」
 威治教士はそう云って浅く頭を下げてから、上着の内ポケットから熨斗袋を取り出して受付テーブルの上にぞんざいな仕草で置くのでありました。
「態々お越しいただいて有難うございます」
 あゆみがしとやかなお辞儀を返すのでありました。「それに綺麗なお花も届けていただいて恐縮です。あれこれお気を遣っていただいたようで、申しわけありません」
「いやいや、とんでもない」
 威治教士は万太郎には見せた事のないような、見ていて呆れる程の、あらんかぎりの親近感に満ちた笑い顔をあゆみに向けるのでありました。
{あのう、お取りこみ中恐縮ですが、御芳名を頂戴出来ますでしょうか?」
(続)
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