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もうじやのたわむれ 336 [もうじやのたわむれ 12 創作]

 拙生は遠慮気味にそう云うのでありました。
「話しを亡者さんの娑婆逆戻りの件に戻しますが、そう云うわけで先ず、亡者さんには黄泉比良坂に行っていただく事となります」
 亀屋技官が話頭を本題の方にグイと戻すのでありました。
「私一人でそこに向かうのでしょうか? 何やら今の話しから黄泉比良坂集落の鬼達と洞窟使用に関して渡りあうのは、私には荷が重いように思いますが」
 拙生はたじろぎの色を、下げた眉尻に浮かべて云うのでありました。
「いやいや、勿論亡者さん一人で行っても何の埒も明きません。洞窟使用に関する連中との交渉は不肖この私が同行して行います。私はその集落の長とはまるで知らない仲でもありませんからね。それにそちらに座っておられる、閻魔庁から亡者さんを護衛してきた二鬼の護衛官も同行しますので、先ず心配はありませんよ。どうぞご安心ください」
「ああそうですか。それならまあ、大丈夫でしょうかな」
 拙生は下げた眉尻を元の位置に戻すのでありました。
「今回は私も同行させていただきますよ」
 横の補佐官筆頭が拙生の方に顔を向けて云うのでありました。「本来は私はこちらの娑婆交流協会との折衝が担当でして、洞窟までご一緒する必要はないのですが、ま、万が一の事態が発生しても、足手纏いにならないように充分注意いたしますから、是非ともご一緒したいと思っております。こちらでやきもきしていても心臓に悪いですからね」
「おや、今回は補佐官さんも洞窟までいらっしゃるつもりなのですか?」
 大岩会長が驚くのでありました。
「ええそうです。閻魔庁を出る時からそのつもりでいましたから」
「しかし万が一の場合を考えると、こちらに残られた方が無難だと思うのですけどね」
「いやいや、私は行きますよ。私は元々、この護衛の二鬼とは違って体育会系ではないので、万が一の場合大して役には立たないかも知れませんが、それでも職務上、こちらで呑気に事の成るのを待っていると云うのは、何とも無責任なような気がしますからね」
「ええと、話しの途中ですが、先程から、万が一の場合、と云う言葉が頻発しておりますが、その、万が一の場合、と云うのは具体的にはどのような場合なのでしょう?」
 拙生がおずおずと言葉を挟むのでありました。
「そうですねえ、まあ、向こうの連中がすんなりと洞窟使用を許さない場合ですな」
 亀屋技官が拙生の怯み顔を無表情に見ながら云うのでありました。
「ですからつまり、すんなりといかない場合の、その具体的な向こうの出方は?」
「例えば亡者さんをふん縛って、集落の中の廃屋か何かに監禁したりして、娑婆交流協会に対して洞窟使用料の吊り上げを要求したりするような、邪な了見を起こした場合です」
「亀屋技官と閻魔庁の三鬼と云う布陣でも、そう云う事が起こるのですか?」
「まあ多分、起こらないと思いますが、しかし起こらないとも限りません」
 亀屋技官が頼りない事を云うのでありました。「ま、いざとなったら黄泉比良坂集落近くの警察署に応援を頼むことも出来ますよ」
(続)
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