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もうじやのたわむれ 335 [もうじやのたわむれ 12 創作]

 大酒呑太郎氏は呆れ顔をして見せるのでありました。「連中は野蛮で無粋で無教養ではあるものの、狡猾さは鬼一倍持っておりましてな、複数の準娑婆省政府のお偉いさんに賄賂で取り入って、自分達の不利益になる決定を何時も巧みに回避するのですなあ」
「その、鬼一倍、と云うのは、娑婆で云うところの、人一倍、ですね?」
「正解でありますな」
 大酒呑太郎氏がまたもやピースサインをするのでありました。
「そんな不正がまかり通るのでしょうか?」
「まかり通りますなあ、準娑婆省では。寧ろ、当たり前で日常的な事と云えましょうかな」
「極楽省とか地獄省に居た鬼としては、そう云う行為に後ろめたさを感じる感性を有しておりますが、生粋の準娑婆省っ子は、全くあっけらかんとしたものです」
 これは大岩会長が云うのでありました。「ねえ、亀屋技官、賄賂の授受と云う行為に、気後れとかを今まで感じた事はないでしょう?」
「気後れ、ですか? 勿論ありません。態々くれると云うのを貰わないのは、返って失礼になるでしょう。どうしてそれが忌々しき事なのか、私には理解出来ませんねえ」
 亀屋技官があっさりそう云い切るのでありました。
「ね、これが準娑婆省っ子の典型的な意見です」
 大岩会長が拙生の方を見て、苦笑うのでありました。「ですから、対応策として、娑婆交流協会側も、少ない予算から捻出した何がしかの利得を政府の高官に食らわしたりなんかして、黄泉比良坂集落の連中の跋扈に対抗する事になるわけです」
「その双方から利得を受けた政府のお偉いさん達同士の抗争と云うのがまた、時には手下を動員して刃傷沙汰に及んだりしましてね、地獄省出身の私なんぞには、狂気の沙汰としか思えないような呆れ返った事態も、間々発生したりするのですなあ」
 大酒呑太郎氏が首を横に振りながら、大岩会長の後を続けて云うのでありました。
「しかし、かかる火の粉は払わにゃならんし、やられたら倍にしてやり返すのが美徳だと、私なんかは学校でも習ったし、家の爺さんにも親父にもそう云われて育ちましたよ」
 亀屋技官がやや不満顔で、大岩会長や大酒呑太郎氏の弁に抗って見せるのでありました。
「・・・なにょう、云いやがる、・・・べら、ぼう、めえ。・・・そう云う了見だから、極楽省とか地獄省の連中に、な、・・・嘗められっ放しなんじゃ、・・・ねえかてんだ」
 これは林家彦六氏が、不意に頭を起こしながら挟んだ言葉でありました。転寝をしているとばかり思っていたのでありましたが、案外そうではなくて、ちゃんとこの場の話しを端から聞いていたようであります。林家彦六氏は地獄省のご出身だと云う事でありますから、一応、準娑婆省の鬼達の一般的な意識の現状に対して、それなりの批判的意見をお持ちなのでありましょう。いやいやなかなかこれは、隅に置けない爺さんであります。
「ま、そう云うわけで、娑婆にちょっかいを出すのも、これでなかなか大変なのですよ」
 大岩会長が溜息をつくのでありました。
「いやあ、娑婆っ気の抜けない、それにまた、これから娑婆に逆戻る予定の私としましては、あんまり簡単に娑婆にちょっかいを出せない方が、有難いかとも思うのですが」
(続)
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