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もうじやのたわむれ 337 [もうじやのたわむれ 12 創作]

「しかし、近くの警察署と云うのなら、集落の鬼側に味方する場合もあるのでは?」
「そうですね。そう云う事は充分にあり得ますねえ」
 亀屋技官は特に深刻そうにでもなく、ごくあっさりとそう云うのでありました。
「大丈夫です! 少なくともこの私と、逸茂、発羅津両護衛官で、あらゆる不測の事態にも対処いたします。まあ、私はさておき、護衛官はそう云う訓練も積んでおりますから」
 補佐官筆頭が拙生の情けなさそうな顔を覗きこんで、自信に満ちた頷きをゆっくり繰り返しながら、キリリと表情を引き締めて請けあうのでありました。
「頼りにしております」
 拙生は姿勢を正してお辞儀を返すのでありました。
「ま、そこまで事態が悪く回る事はないと思いますが、一応注意喚起と云う事で」
 亀屋技官がそう云いながら、椅子の背凭れに体を引いて頭を掻くのでありました。
「洞窟使用料に関しては、娑婆交流協会とその黄泉比良坂集落の鬼達との間で、一定の取決めみたいなものがあるのでしょう?」
 拙生は大酒呑太郎氏の顔を見ながら訊くのでありました。
「あります。しかし往々にして無視されます。特に今回のように、普通に準娑婆省の鬼とかが洞窟を使用する場合ではなくて、特例となる場合は猶更ですな」
「それは困った事ですねえ」
 拙生はそう云いながらも、それで準娑婆省の鬼が娑婆にちょっかいを出しにくくなるのは、娑婆の方にすれば寧ろ歓迎すべき事には違いないと、再度思うのでありました。娑婆に逆戻る身としては、寧ろ黄泉比良坂の鬼達に、秘かにエールを送りたいような心持ちでありますかな。まあ、拙生の今回の逆戻りの件に関しては別でありますが。
「ええと、黄泉比良坂の鬼達との折衝は総て亀屋技官がいたしますので、すっかりお任せください。下手に事態を拗らせないためにも、くれぐれもその辺は宜しくお願いします」
 大岩会長が補佐官筆頭と逸茂、発羅津両護衛官の顔を交互に見ながら念を押すのでありました。これはつまり、準娑婆省外の鬼は黄泉比良坂の鬼達と要らぬ衝突をしてくれるなと、言外に要請しているのでありましょう。何やら娑婆交流協会は、黄泉比良坂の鬼達に対して、少々ナイーブになっているような按配だなと拙生は推察するのでありました。何故そうならざるを得ないのか、その辺の詳しい事情は拙生には判らないのでありますが。
 黄泉比良坂の鬼達が矢鱈に強悍な集団で、中国の『水滸伝』と云う物語にある梁山泊に参集する豪勇の義士みたいに、腕っ節では準娑婆省の警察や軍隊を向こうに回しても、決して引けを取らない猛者連中なのでありましょうか。それとも真偽は別にして面白おかしさと云う点で、娑婆で巷間よく囁かれるところの国家の中枢にまで魔手を伸ばし、一国を裏で支配している、良からぬ了見を秘め持った闇の秘密結社の大元締めが、黄泉比良坂の鬼達なのでありましょうや。或いは単に、洒落もヨイショも通じない、話しの全く解らない無粋で粗暴で、目先の利のみに異常に囚われている、手のつけられない野鬼の集まりなのでありましょうか。ま、今のところ材料は乏しいながらも色々想像出来るのであります。
「まあ、会長が云われるように、何事も穏便に事を運ぶに如くはありませんかな」
(続)
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