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もうじやのたわむれ 249 [もうじやのたわむれ 9 創作]

 部屋に戻ると拙生は上着を脱いでポケットに入れていた一切を取り出して、ドレッサーの上に置くのでありました。それから腕時計を見て、昨日、億劫ガスのせいかどうか知らないけれど、眠たくなった時間まで未だ二時間ばかりある事を確認するのでありました。
 拙生は冷蔵庫から缶ビールを取り出して、ドレッサーの上に置いた可愛いイラストの描いてあるメモ帳と、ボールペンをピックアップしてソファに腰かけるのでありました。これから、明日の審理で閻魔大王官に質問するつもりの、この三日間で拙生が疑問に思ったこちらの世のあれこれの事を、箇条書きに整理してみようと云う了見であります。
 缶ビールを開けて一口それを口に含んでから、拙生は最初の、審理を終えて補佐官筆頭にこの宿泊施設のロビーに案内された辺りから、ぼつぼつと記憶を蘇らせるのでありました。宿泊施設のロビーでは補佐官筆頭にチェックインを代行して貰って、その後確か、合気道の達人の鵜方三四郎さんと云う亡者に声をかけられたのでありました。
 娑婆にあったカトレアと云う喫茶店に噴水があったのなかったの、と云う話しが取りかかりで、その後拙生が散歩に誘ったのでありましたか。その辺りでは特段、閻魔大王官に訊き質すべき疑問はなかったでありましょうかな。その後、フロントの女性従業員の勧めで、散歩に出る前にコンシェルジュに色々アドバイスを貰ったのでありました。
 それから散歩に出発して、邪馬台銀座商店街をぶらついて、喫茶店に入って、・・・。と、ここまでを思い出してみても、なかなか閻魔大王官に質すべき質問が頭の中に浮き上がってこないのでありました。疑問に思った事が多々あった筈でありましたが、こうして順次に場面をなぞってみても、拙生の迂闊さ故か容易には思い出せないものであります。拙生はビールを一口飲んで、ボールペンで頭を掻きながら溜息をつくのでありました。
 すると頭皮の刺激が功を奏したのか、疑問の一つが唐突に拙生の頭蓋の内側にふわりと姿を表すのでありました。それはもう準娑婆省の諜報員らしきに因る我々の誘拐騒ぎも落着して、事情聴取も済んで警察署からこの宿泊施設まで警護員に送って貰った後、ロビーの噴水近くのソファに座って、鵜方氏とこれでお別れするのが名残惜しいものだから、コーヒーを飲みながらまた色々、先程の誘拐騒ぎの事等雑談していた時でありましたか。
 その疑問と云うのは、亡者は誘拐される危険があるが、邪馬台郡の住霊に生まれ変わって仕舞えば、そう云う危険はなくなるだろうからと云った鵜方氏が、その続きの言葉を途中で止めて「いや、しかし考えてみたら、住霊も拉致されるなんと云う可能性はないのでしょうかね?」なんぞと、急にその点を思いついたように呟いた疑問でありました。そうなると住霊に生まれ変わった後も、準娑婆省に拉致される危険は残るわけであります。
 しかしコンシェルジュも警察署の刑事も、我々を護送してくれた閻魔庁警護係の賀亜土万蔵係長も、我々亡者に対してはその危険を大いに鳴らして、最大限の警戒を喚起していたものの、住霊に対する誘拐事例については何も言及していなかったように思うのであります。それは亡者の我々には特段云う必要がないから云わないで置いたのか、それとも準娑婆省の諜報員は実際に住霊の方は狙わないのか、その辺が良く判らないわけであります。
 この疑問は鵜方氏も屹度、次の日の二回目の審理で、担当の閻魔大王官に訊ねている筈であります。それを漏れ聞く事は出来ないから、拙生の方も訊き質さなくてはなりません。
(続)
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