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もうじやのたわむれ 248 [もうじやのたわむれ 9 創作]

 拙生は両掌を横にふるのでありました。「こちらの世に生きる一般の女性の鬼さん達と一緒に過ごせて、大変味わい深い体験をさせていただきました」
「娑婆時代のタイプの女性と、期せずしてこちらで巡り逢えてよかったわね、おじさま」
 藍教亜留代さんがそんなからかうような事を云って、ニヤニヤと笑うのでありました。
「へい、お蔭さまで」
 拙生はそう云って楚々野淑美さんを見るのでありました。淑美さんは照れたように微笑んで、拙生の目から視線を外すのでありました。
 カラオケボックスの中に女性三鬼を残して、拙生と逸茂厳記氏と発羅津玄喜氏は店の外に出るのでありました。外はもうすっかり夜更けているのでありました。
 カラオケ店の駐車場車からは、ほんの数分程度で閻魔庁の宿泊施設に到着するのでありました。我々は出発した時と逆コースで、職員専用の出入口から宿泊施設に入り、職員専用のエレベーターでホールまで向かうのでありました。
「私をホールまで無事に送り届けたら、それでお二人の、いやお二鬼の三日間宿直の護衛の仕事はお仕舞いという事になるのですかな?」
 拙生はエレベーターの中で逸茂厳記氏に訊くのでありました。
「ええ、一応報告書を書く事になっておりますがそれは明日の昼までに、かかった寄席の入場料やらの経費出金伝票なんかと一緒に、賀亜土係長に提出すればそれで良いのです。若し今日の夜、亡者様が外出される場合は、別の警護係りの鬼が護衛いたします」
「退社後はお二鬼で酒の飲み直しと云うわけですかな?」
「実は先程の彼女達に、あのカラオケ店で待って貰っているんです。我々二鬼はこの後また舞い戻って、再度カラオケで盛り上がる所存です」
 これは発羅津玄喜氏が云う言葉でありました。
「ああそうですか。それは知らなかった」
 何時の間にそんな話が纏まっていたのでありましょうか。
「逸茂さんも一緒に舞い戻るので?」
「ええ、まあ」
 逸茂厳記氏はあんまり意欲的でない、と云った按配の返答をするのでありました。
「若し億劫でなかったら、亡者様もご一緒されても構いませんよ。これから先は仕事外になりますが、ちゃんと責任を持って我々でタクシーでここまでお送りしますし」
 発羅津玄喜氏が愛想良く拙生を誘ってくれるのでありました。
「いや、止しておきましょう。これから先はお二鬼のプライベートの時間でしょうから」
「我々は全く構いませんよ」
「いやそれでも止しておきましょう。お若い鬼さん達で気兼ねなく盛り上がってください」
 拙生は遠慮するのでありました。「この三日間、本当に有難うございました」
「ああそうですか。私等は本当に構わないのですが。・・・」
 楚々野淑美さんともう一度話しがしてみたいとは思うのでありましたが、拙生はこれから亡者の本分に立ち返って、明日の審理に備えて思い悩む事にするのでありました。
(続)
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