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もうじやのたわむれ 180 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「貴方が暴漢達を一人でやっつけられたと伺いましたが?」
 賀亜土万三氏がやや目を見開いて鵜方氏に訊くのでありました。
「ええまあ」
「随分とお強いのですねえ」
「いやそれ程でも」
 鵜方氏は無表情な儘、クールに自分の腕自慢を避けるのでありました。
「合気道の技だと仰いましたよね?」
「こちらにもありますか、合気道と云う武道が?」
「ええあります。柔道も剣道もあります」
「ほう、そうですか」
「娑婆に在る武術武道は総てこちらにもあります。武芸十八般です。柔道、剣道、合気道、空手、薙刀、それに水泳術も槍も弓も馬も未も申も酉も戌も。・・・」
「それは十二支です」
 拙生がツッコむのでありました。これは寄席で聴いた春風亭柳昇師匠の落語にあります。
「ではお乗りください」
 警察署の駐車場の端に止めてある、前のドアに閻魔庁と書いてある白い大型のバンの後ろのドアを開きながら、賀亜土万三氏が云うのでありました。乗ろうとする間際に、鵜方氏がふと乗るのを逡巡するような仕草をして、賀亜土万三氏を上目で見るのでありました。
「閻魔庁施設局警護係の警護員と名乗る貴方達が、実は準娑婆省の諜報員だと云う事もあり得るかも知れませんよね。そうなるとさっきの刑事さんも我々も見事に嵌められて、我々はこれからこの車で、準娑婆省の方に拉致される事になるわけだ。ま、冗談ですけどね」
 冗談とは云いつつも、鵜方氏は鋭い眼光を賀亜土万三氏の目に注ぐのでありました。
「ああ、そのご懸念は尤もな事です」
 賀亜土万三氏が柔らかな笑い顔で返すのでありました。「若しお疑いのようでしたら、貴方様の携帯電話で閻魔庁の宿泊施設に電話をされて、そこから警護係の方に回して貰って、警護員が亡者様を迎えに警察署に派遣されたのかと云う点、それに私の名前と見た目の特徴なんかを確認されては如何でしょうか? そうすると貴方様も安心出来るでしょうし」
 この賀亜土万三氏の語調は、自分達が疑われた事に対する反発やたじろぎのようなものは一切なくて、あくまでも謙った静かなものでありました。
「では、気分を害されるかも知れませんが、場合が場合ですからそうさせて頂きますかな」
 鵜方氏はそう云うと拙生の腕を取って、車からやや離れた位置まで後退するのでありましたが、これは万が一、電話している最中に急に襲われた時の対処でありましょう。拙生なんかにはとても真似の出来ない、なかなかハードボイルドな鵜方氏の行動であります。
 ポケットから携帯電話を取り出す鵜方氏に、拙生が小声で話しかけるのでありました。
「貴方のご懸念は、多分取り越し苦労だと思いますよ」
「ほう、どうしてそう云えるのです?」
 鵜方氏は携帯電話の操作を止めて拙生を見るのでありました。
(続)
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