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もうじやのたわむれ 181 [もうじやのたわむれ 7 創作]

「あの武芸十八般の時の語り口とかボケ方なんかを聞いていると、あれは地獄省の鬼達特有のものに相違ありませんよ」
「ふうん、そうですか。それは貴方の勘と云うものですね?」
「そうです。まあ、勘と云うだけで、なんの根拠もないと云えばその通りです」
 拙生は頼りなさげに頭を掻きながら笑うのでありましたが、鵜方氏の、拙生の目の中を鋭く窺う視線にたじろいではいないのでありました。「それに私が知っている地獄省の鬼達と云っても、閻魔大王官とか補佐官とか、審問官とか記録官とか、その他は宿泊施設のコンシェルジュ程度でしかありませんが、しかし、私のこの勘に先ず間違いないと思います。彼等には独特の洒落っ気と云うのか、地口遊びとか冗談とか、すかたんの云いあいを無性に面白がる性癖があるようで、その時の活き々々とした色あいが、あの賀亜土万三と云う名前の警護官の顔にも、矢張り確かに浮かんでいましたからね。こんなのは如何にも脆弱な根拠としか思われないかも知れませんが、でもこの見立てには大いに自信があるのです」
「矢張りそれは貴方の、思考の筋道を欠いた、単なる印象とか云うべきものでしょう?」
 鵜方氏は懐疑の言葉を口に上せるのでありました。
「まあ、そう云って仕舞われれば、私には返す言葉はありませんが」
「しかしそう云う或る種の印象と云うのか、独特の勘と云うのは、或る場合、実はクールで精巧そうに見える理屈なんかよりも、見事に正鵠を得ている事がありますからねえ」
 鵜方氏が口をへの字にして首をやや斜め前に倒して、腕組みするのでありました。それから時々拙生を上目でちらと窺ったり、その後また自分のつま先に視線を移したりしながら、あれこれと考えを廻らしているのでありました。
「宜しい」
 鵜方氏が暫くの後に顔を上げて云うのでありました。「ここは貴方の勘を信じましょう」
「それで本当に宜しいので?」
「人を観る時に、そのような即断的な勘も大事な場合もあります。疑えばきりがないですしね。それに我々がこうしている時にも、連中からはこちらの隙を窺っていて、期を見て襲いかかってくるような気配と云うのか、殺気というものは全く感じられませんしね」
「その辺の見立ては、貴方の方がご専門でしょうから」
「ま、この私の殺気を感じないと云うのも、云わば勘と云うものに属するものでしょうし」
 鵜方氏は納得気に何度か頷きながら、携帯電話をポケットに仕舞うのでありました。
「確認が出来ましたでしょうか?」
 我々が近づいて行くと、車のドアを開けた儘にして、その取手にずっと手を添えた儘の状態で待っていた賀亜土万三氏が、お辞儀をしながら訊くのでありました。
「はい。疑いが晴れました」
 鵜方氏が笑いながら明瞭にそう云うのでありました。
「ああそうですか。それは良かった」
「お気分を害するような真似をして、申しわけありませんでした」
「いやいや、とんでもない。一度襲われたのですから、その警戒は当然の事ですよ」
(続)
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