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もうじやのたわむれ 179 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「閻魔庁の宿泊施設からお迎えの方がいらしてます」
 警官は顔を室内に戻してそう云うと、扉を大きく開くのでありました。そこから、恐らく宿泊施設の出入口で見た警備員と同じ、警察官のものとは違うやや明るい藍色の制服を着た三人、いや三霊、若しくは三鬼の男達が応接室の中に入ってくるのでありました。
「警察署の方から連絡を頂いて、閻魔庁施設局の警護係から亡者様をお迎えに上がりました。私は責任者の、名前を賀亜土万三と申します」
 一番大柄で一番年嵩らしい警護員がそう名乗って、身分証明書のようなものを提示してから、レインコートの刑事に律義な敬礼をするのでありました。
「ああ、ご苦労さんです」
 刑事も立ち上がって、こちらは如何にも無精そうに敬礼を返すのでありました。
「事情聴取はもう済んだのでしょうか?」
「ええ。あらかた終わりました。単なる刑事事件と云うのではなくて、事は準娑婆省絡みの省家的問題になりそうですから、そうなると我々邪馬台郡の警察が処理するには大き過ぎます。被害届の提出も、亡者さん関連の事件では必要ありませんしね。どうせ亡者さん達は三日以内に、新しい霊として地獄省か極楽省に生まれ変わられるのですから、そうなると被害そのものも、結果として消滅して仕舞うわけですから。ま、そう云う事ですわ」
「では亡者様達は、これにて放免と云う事で宜しいのですね?」
「ええ、結構です」
 刑事はそう云って、拙生と鵜方氏の方にお辞儀して見せるのでありました。そのお辞儀に誘われるように、我々も立ち上がるのでありました。
「では、宿泊施設まで我々が警護いたします」
 賀亜土万三氏が拙生と鵜方氏に敬礼するのでありました。
「いやまあ、被害に遭われた上に、聴取のためのお時間まで頂戴して恐縮でした」
 刑事が我々の方に向かって云うのでありました。「カツ丼のおもてなしくらいさせて貰いたかったのですが、生憎食堂の方がもう閉まっておりますのでそれも出来ません」
 刑事は冗談めかした口調で云って、拙生を見てニヤっと笑うのでありました。
「いやいや、コーヒーを有難うございました」
 拙生は頭を掻きながらお辞儀をするのでありました。
「では、もうお会いする事もないでしょうが、お元気で。ご協力を感謝いたします」
 刑事はそう云って先ず鵜方氏と、その後に拙生と握手するのでありました。
「ご難儀な事でした」
 警察署を出て迎えの車に向かう途中で、拙生と鵜方氏の左側を歩く賀亜土万三氏が、我々にそう声をかけるのでありました。警護員は右側にも一鬼、後ろに一鬼で歩く我々を囲んで、時々周りに鋭い視線を投げながら警護してくれているのでありました。
「いやいや、こう云う云い方は不謹慎かも知れませんが、面白い体験をさせて貰いました」
 鵜方氏が笑いながら返すのでありました。「久しぶりに合気道の技なんかも使って、未だそんなに衰えていないのを確認させて貰えた分、痛快でしたよ」
(続)
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