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枯葉の髪飾りCCⅩⅩⅩⅤ [枯葉の髪飾り 8 創作]

 食事が済んだ後に拙生に渡したいものがあると云って、お母さんが仏壇の置いてある部屋から紙袋を持ってくるのでありました。袋の中には吉岡佳世の遺品が入っているのでありました。
「佳世の荷物ば整理しよるとやけど、井渕君に所縁のある物の幾つかあってさ、もし迷惑じゃなかなら、貰てくれんかねて思うてね」
 お母さんが云うのでありました。
「佳世のことは早く忘れて、新しい出逢いを大切にする方が良いよとか云っている割には、こんなものを井渕君に渡そうとしているのも、なんか矛盾しているような感じだけど」
 お父さんがそう続けて頭を掻くのでありました。
「まあ、あたし達はこれをどがんしてよかもんか一寸判らんもんやから、一応井渕君の目に入れようて考えてさ。貰うとが嫌やったら、気兼ねせんで、嫌て云うてよかとけんね」
 お母さんはそう云いながら紙袋から幾つかの品を取り出すのでありました。先ず吉岡佳世が拙生の受験の為に願懸けをしてくれた、あのおまじないノートが三冊出てくるのでありました。それから拙生が東京土産に彼女に買ってきた写真の入っていない写真立てに、片手では少々持て余す程の大きさの犬のぬいぐるみが拙生の前に並ぶのでありました。ぬいぐるみは多分彼女の部屋に飾ってあったものでありましょうが、拙生にはあまり馴染みがないのでありました。
「そのぬいぐるみは、ひょっとしたら、なんで自分に所縁のあるものか井渕君は判らんかも知れんけど、尻尾のところについとるタグば、ちょっと見てみんや」
 拙生がぬいぐるみを持って、どうしてこれが拙生に渡されるべきものなのか要領を得ない顔をしているものだから、お兄さんがそう云ってくれるのでありました。手をかえして犬に後ろを向かせて尻の辺りを覗くと、そこには少し大きめの白いタグが毛に半分埋もれて見えるのでありました。タグには拙生のインシャルと思しき「S.I君」と云う文字と、その横にハートのマークが赤いペンで書いてあるのでありました。
「佳世はなあんも云わんとやったけど、その犬は何時やったかあの子が何処かで買って来て、大事に机の横に置いとったとさ。多分井渕君の代わりにしとったとて思うよ」
 お母さんが説明してくれるのでありました。拙生は彼女が三ヶ町のペットショップで買いそびれてしまった、ケージの中に居た仔犬を思い出すのでありました。
「実は井渕君が四月に東京に行って仕舞う日、佳世が駅まで見送りに行ったやろう、その時佳世は結構体調の悪うして、ちょっと動ける感じじゃなかったとばい」
 お兄さんがそんなことを云い出すのでありました。「井渕君には後で事情ば説明すれば、判って貰えるて説得したとやけど、佳世はどがんしても行くて云うて聞かんでね」
「死んでも行くて、涙ば流して云うとやもん。妙に必死やったねえ、あの時の佳世は。もう井渕君に逢えんことば、なんかしら判っとたとかも知れんね、今考えてみるとさ」
 お母さんが言葉を足すのでありました。
「結局根負けして、オイが一緒につき添って、井渕君ば見送りに行ったとばい、あの日は」
 お兄さんはそう云って口元を苦笑に動かすのでありました。
(続)
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