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枯葉の髪飾りCLⅩⅩⅠ [枯葉の髪飾り 6 創作]

 吉岡佳世から来る手紙が、滞るようになるのでありました。それまでは三、四日置きに来ていたものが一週間に一通となり、時には十日も来ない場合があるのでありました。拙生は心配になって此方からは週に二通は出すのでありましたが、なにやら手紙を出す頻度を彼女のペースに合わせないのは、拙生がもっと手紙を寄越せと督促しているような感じで、彼女にはひょっとしたら負担かも知れない等とそんな考えも一方にあるにはあったのでありましたが。
 確かに、それ程頻々と言葉を遣り取りする要件は特段なにもないのでありますから、話題には事欠いているのでありました。しかし彼女の手になる文字と彼女の触った封筒や便箋を受け取ることが拙生には嬉しいのでありましたし、彼女の方もそうであろうと勝手に思っていたから、彼女からの手紙の疎隔は拙生にはかなり不本意な事態でありました。
 手紙を書く間隔を空ける何らかの理由が彼女に生じたのでありましょうか。ひょっとしたら遠くに離れてしまって、少々時間も経って、拙生の像が彼女の中で委縮したのかも知れないと考えると、拙生は焦燥のために身悶えする程でありました。まさかそんなことはなかろうと一人頭を横にふるのでありましたが、他人の気持ちと云うものは測りがたいものでありますから、彼女の気持ちの変化と云うものも考えられる理由の一つでは、確かにあるのでありました。
 まあ、そう云った気持ちの問題ではなくて物理的な要因も考えられるのでありました。学校での受験補習授業で手一杯のため、そうそう拙生に手紙を書く時間がなくなってしまったとか、或いは此処に来て彼女の体調が思わしくないとか。・・・
 彼女の手紙は変わらずふざけた語尾や云いまわし、それにカタカナの擬音や可愛らしい色つきの吃驚マークとはてなマーク、唇やハートの絵が満載されているのでありましたし、前の手紙と文の調子も内容も特に変化した形跡は認められないのでありました。しかし当然のことながら手紙が滞るはっきり判るような理由らしきことも勿論書かれてはいないから、拙生は余計不安になるのでありました。行間に彼女の真意或いは出来した理由の小さな痕跡かなにかがないものかと、彼女の手紙に学校生活の具体的な描写がない理由を探った時のように、拙生はそれを何度も構文分析的に読み返そうとするのでありました。しかしこれは分析とは名ばかりで、結局拙生の中であれこれ理由を勝手に忖度する以上のことではありませんから、確たる解答が導き出されるわけもありません。ただ焦燥と気懸りを増幅させるだけの徒労とは判っているものの、しかし彼女からの手紙を睨みながら拙生はそうしなければいられないのでありました。
 拙生はそんな自分の動揺や不安や、もっと云えば彼女への不信感のようなものを極力、此方からの手紙の文面に表わさないように努めるのでありました。そうやって彼女に負担を求めるのは礼儀の上からも、それに彼女への愛情が不変であることの自分への証明の上からも、不穏当な仕業であると思うからでありました。彼女からの手紙が滞っても拙生が相変わらず週に二度の割で手紙を出すのも、同じ気持ちからでもありました。しかし拙生の手紙の文字と文字の間に、それに、出す頻度を変えない拙生の態度に、そう云った拙生の気持ちの粟立ちが、意図に反して表象されていたかも知れませんが。
(続)
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