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枯葉の髪飾りCLⅩⅤ [枯葉の髪飾り 6 創作]

「オイは少し遅う行ったから、二階席の端に座っとったけん、当事者て云う感じの全然せんやったばい。何処かの式典の単なる観客て云う雰囲気やった。態々行くこともなかったて後で思うたぐらいぞ。入学式の後に何か大事なもんば渡されるて云うこともなかったし、実際、絶対に参加せんばんばならんて云うとじゃ、なかったごたるし」
「ふうん。高校とは違うとねえ、入学式も」
「その代わり、北の丸公園とか、皇居のお堀の景色とかは、なんとなく感じの良かったばい。満開の桜の咲いとって、風の吹くぎんた、花弁がお堀に吹雪のごと散ったいしてね。入学式の終わった後で、ちらちら散歩してきた。来年、連れて行ってやるけんね」
「うん、楽しみにしとく」
「そう云えば武道館に入る門の処で、ヘルメットば被った学生の、なんやらビラば配りよったぞ。そいで、なんか横断幕とか旗ば持って、なんとかなんとかてシュプレヒコールば上げよった。なんて云いよっとか、さっぱり判らんやったばってん。門の中には機動隊の居ってくさ、ちょっと小競りあいとかもあって、緊迫した感じも少しあったぞ」
「ふうん、佐世保じゃちょっと考えられんね」
「エンタープライズの入港した時、佐世保でも機動隊と学生の衝突したけどね。尤もそん時は小学生やったし、街に出たらダメて学校で云われとったから、実際はテレビでしか見とらんけど。まあ、今日のは、あがん大規模な衝突じゃあ、全然なかったばってん」
「ふうん。ところで井渕君、友達はもう出来た?」
 吉岡佳世が急にそんなことを聞くのでありました。
「いやあ、まあだ誰とも話す機会のなかけんねえ。明日辺りからクラスのヤツとかと、ちょこっと話ばすることもあるやろうけどね。ばってん、クラス単位の講義とかは、そがん多かわけじゃなかけんねえ。未だ、なんにつけても勝手の判らんけん、誰か話すヤツの一人位居った方が心強かとは思うけど」
 拙生はそんなことを喋りながら、大体この電話は吉岡佳世の声を聞こうと思ってかけているのであって、拙生の方が多く喋るのは本意ではないのだが等と思うのでありました。
「あたしの方も、友達て云うか、親しくなった人は未だ居らんよ。まあ、去年の体育祭とかで、なんとなく見知った人は、クラスの中にも居らすけど」
 拙生の話に誘発されたのか、吉岡佳世も自分の様子を語り始めます。「尤も、理由にもならん理由やけどさ、クラスの人は皆、この前まで下級生やった人達やろう、だからなんとなくあたしから、親しく話しかけるとは、ちょっと尻ごみしてしまうの。そんな尻ごみなんか、本当はせん方が良いに決まってるとけど」
 確かに吉岡佳世の新しいクラスの中には、彼女が彼等の中の数人の顔を見知っているのと同様に、彼女のことを知っている者もそれは居るでありましょう。この前まで上級生であった吉岡佳世が卒業しないで、一級下の自分たちのクラスに混じっているのを奇異に感じたり、好奇の目で眺めるであろう輩も屹度存在するに違いありません。彼女にはその辺りが辛いかも知れません。自分の方から自分を曝け出して彼等の中に入って行くと云う積極性等は、性格からすれば如何にも彼女には縁遠い態度でありましょうから。
(続)
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