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枯葉の髪飾りCLⅩⅣ [枯葉の髪飾り 6 創作]

「どうや、最近の体の調子は?」
 拙生は気を取りなおして、そんな言葉を吉岡佳世の耳に送るのでありました。
「うん、大丈夫、平気」
「あの日、駅から帰った後も、大丈夫やったか?」
「うん、なんともなかったよ、体は」
 ここでまた少し言葉が途切れるのでありました。
「新学期の始まったとやろう、手紙に書いてあったけど?」
「そう、もう始まった」
「どがんや、新しかクラスは?」
「うん、そうね、まだ、余所々々しか感じ。その内皆打ち解けてくるては思うけど」
 これは彼女の手紙に書いてあったことをそのままなぞるような言葉でありました。
「担任は誰に、なったとやったかね?」
 新しい担任の名前も彼女の手紙に書いてあったのでありますが、拙生は既に判っていながらそんなことを聞いているのでありました。その拙生の問いに吉岡佳世は手紙の通り、昨季の我々の数学の担当だった教師の名前を云うのでありました。なんとなく面白味のない、印象の薄い先生でありました。
「坂下先生とは、違ったばいね」
「坂下先生は、一年生のクラス担任にならしたと」
「今度の新しかクラスでも、担任が坂下先生ならよかったとにね」
「うん。でも始業式の日に態々あたしの傍に来て、声ばかけてくれたとよ。なんかあったら遠慮なく相談に来てよかぞ、て」
「今度のクラス担任よりは、色々事情の判っとらすけんね、坂下先生は。お前もこの一年、何かにつけて相談に乗って貰うた方がよかばい」
「まあ、そうやけど。でも坂下先生も新しかクラスば持って、色々大変やろうし」
「ばってん、今度の担任よりは、絶対頼りになるて思うばい」
「うん、まあ、なんかの時は、坂下先生に、相談に乗って貰う積りではいるけど」
「そいが良か。ま、特段何もなかことば祈っとるけどさ」
「そっちはどう、大学の方は?」
 吉岡佳世が話題を変えます。
「うん、今日が入学式やった。明日から健康診断とかガイダンスとか始まる予定」
「入学式はどうやった?」
「人間のうようよ居って、気疲れしたばい。マンモス大学けんね、ウチの大学は。ほら、コンサートとかようやる日本武道館であったとばってん、高校の入学式と違うて、如何にも入学式て云う雰囲気は全然なかったぞ。新入生がクラスごとに演壇の前に並ぶとか云うとじゃなくて、皆来た順に適当に席につくし、二階席とか三階席とかもあるし、学生服ば着とるヤツなんか殆ど居らんし。まあ、オイも学生服は着て行かんやったばってんが」
 拙生は入学式の様子をそんな風に紹介し始めるのでありました。
(続)
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