枯葉の髪飾りCⅩⅩ [枯葉の髪飾り 4 創作]
「合格のお祝いばせんといかんね、それは」
彼女のお母さんが云うのでありました。「なにか欲しかもんとかあるね、井渕君は?」
「いやあ、そがんことばしてもらうぎんた、困るです」
拙生は頭を掻くのでありました。
「すぐに東京に、また行くと?」
吉岡佳世が聞きます。
「いや、手続きとかは全部郵送とかで出来るて思うけん、卒業まではこっちに居る」
「色々と、あっちで用意のあるとやなかと?」
「まあ、落ち着き先も叔母さんのやっとるアパートに入る手筈やから、そがんなんやかんやと用事はなかやろう。四月になってから向こうに行っても、間にあうて思うとるとけど。色々所帯道具とか揃うまでは、叔母さんの家に厄介になればよかし」
「そんなら佳世が退院したら、そのお祝いと一緒に、井渕君の合格祝いもいしょうか」
「そうね、そうしようよ。うん、それがよか」
吉岡佳世が手を打つのでありました。
「隅田君や安田君、それから島田さんはどうやろうか、受験は?」
彼女のお母さんが拙生にとも吉岡佳世にともつかない風に問うのでありました。
「安田と島田はぼちぼち判るとやなかですかね。隅田は少し先になるばってん」
「ああそうね。隅田君がはっきりしてからの方がよかかね、皆一緒にお祝いするとしたら」
「お祝いになるか、残念会になるか判らんですよ、まだ」
「お、余裕の発言ね、それは」
吉岡佳世がそう云う拙生をからかうのでありました。
「いや、別にそがん積りじゃなかとけど」
「そんなら、あたしの退院祝いと、皆の卒業祝いて云うことにすれば、よかとやなか?」
「ああ、そうね、卒業祝いたいね、名目は」
彼女のお母さんがそう云った後吉岡佳世を見ながら続けるのでありました。「佳世は四月の卒業は、多分無理やろうけど」
そう云われて吉岡佳世はなんとなく笑っているのでありましたが、内心彼女はそれがとても残念なのでありましょう。この四月から誰も知り合いの居ない下級生の中に混じってもう一度三年生として高校に残るのは、ひどく心細かろうと拙生は彼女の気持ちを推し量るのでありました。出来れば自分も一緒に卒業したかったでありましょうが、それはもう絶対無理であると自分でも諦めているようであります。
「兎に角、そう云うことで決まり。早く退院したかよ、あたし」
吉岡佳世が努めて陽気に云うのでありました。「お母さん、あたしの退院の日はいつになったと?」
「一応、来月の初めて云われとるけど、結局あんた次第さ」
「そうか、よし、あたしも頑張らんと」
吉岡佳世はそう云って華奢な拳を顔の横に突き上げて見せるのでありました。
(続)
彼女のお母さんが云うのでありました。「なにか欲しかもんとかあるね、井渕君は?」
「いやあ、そがんことばしてもらうぎんた、困るです」
拙生は頭を掻くのでありました。
「すぐに東京に、また行くと?」
吉岡佳世が聞きます。
「いや、手続きとかは全部郵送とかで出来るて思うけん、卒業まではこっちに居る」
「色々と、あっちで用意のあるとやなかと?」
「まあ、落ち着き先も叔母さんのやっとるアパートに入る手筈やから、そがんなんやかんやと用事はなかやろう。四月になってから向こうに行っても、間にあうて思うとるとけど。色々所帯道具とか揃うまでは、叔母さんの家に厄介になればよかし」
「そんなら佳世が退院したら、そのお祝いと一緒に、井渕君の合格祝いもいしょうか」
「そうね、そうしようよ。うん、それがよか」
吉岡佳世が手を打つのでありました。
「隅田君や安田君、それから島田さんはどうやろうか、受験は?」
彼女のお母さんが拙生にとも吉岡佳世にともつかない風に問うのでありました。
「安田と島田はぼちぼち判るとやなかですかね。隅田は少し先になるばってん」
「ああそうね。隅田君がはっきりしてからの方がよかかね、皆一緒にお祝いするとしたら」
「お祝いになるか、残念会になるか判らんですよ、まだ」
「お、余裕の発言ね、それは」
吉岡佳世がそう云う拙生をからかうのでありました。
「いや、別にそがん積りじゃなかとけど」
「そんなら、あたしの退院祝いと、皆の卒業祝いて云うことにすれば、よかとやなか?」
「ああ、そうね、卒業祝いたいね、名目は」
彼女のお母さんがそう云った後吉岡佳世を見ながら続けるのでありました。「佳世は四月の卒業は、多分無理やろうけど」
そう云われて吉岡佳世はなんとなく笑っているのでありましたが、内心彼女はそれがとても残念なのでありましょう。この四月から誰も知り合いの居ない下級生の中に混じってもう一度三年生として高校に残るのは、ひどく心細かろうと拙生は彼女の気持ちを推し量るのでありました。出来れば自分も一緒に卒業したかったでありましょうが、それはもう絶対無理であると自分でも諦めているようであります。
「兎に角、そう云うことで決まり。早く退院したかよ、あたし」
吉岡佳世が努めて陽気に云うのでありました。「お母さん、あたしの退院の日はいつになったと?」
「一応、来月の初めて云われとるけど、結局あんた次第さ」
「そうか、よし、あたしも頑張らんと」
吉岡佳世はそう云って華奢な拳を顔の横に突き上げて見せるのでありました。
(続)
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