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枯葉の髪飾りCⅩⅨ [枯葉の髪飾り 4 創作]

 最初に結果発表のあった大学に幸いにも拙生はどうにか合格していたのでありました。大学まで合格者の張り紙を見に行ってくれた東京の叔母から午前中に電話があったらしく、学校が終わって例によって吉岡佳世を見舞って帰った拙生は母親からそのことを聞くのでありました。合格証と入学に必要な書類は叔母が貰って帰って、その日の内に此方へ送ってくれたとのことでありました。拙生はそれは嬉しくはありましたがなんとなく合格と聞いた途端に気が抜けて、まあ呆気ないものだなと云う感想しか涌きあがってこないのでありました。その夜に東京の叔母へ足労をかけた礼の電話を入れ、行くのはその大学に決めるから残りの所に関しては、合格発表を態々明日見に行って貰わなくともよい旨告げるのでありました。知名度も合格した大学が一番あるようなので、拙生の母親もその大学に決めたことに異論はないのでありました。
 叔母への電話を切った後に拙生は吉岡佳世の家に電話を入れるのでありました。電話に出たのは彼女のお父さんでありました。拙生はお父さんの声を受話器の向こうに聞いた途端、少し緊張して丁寧な言葉遣いで入試に合格したことを告げるのでありました。彼女のお父さんからは此方が恐縮するくらい大袈裟に祝いの言葉を貰って、拙生は大いに照れるのでありました。
「井渕君のことだから合格は間違いないとは思っていたけど、大したもんだ。佳世に報告方々、明日も病院に見舞いに行ってくれるんだろう?」
「はい、一応その積りです。毎日んごと顔出しして、図々しかですけど」
「いやいや、そんなことはないよ全然。変に気を回すことはないから。それに佳世に井渕君の口から直接そのことを云って貰えれば、佳世も一層喜ぶだろうし」
「はい、色々、心配して貰うとるしですね」
 拙生はその電話を切った後に、後でなんで吉岡佳世の家にだけ報告の電話を入れたのか母親に変に勘繰られるのを恐れて、その後隅田と安田にも電話をするのでありました。そうすれば親しい友人何人かに報告を入れたと云うことで、なんとなく不自然な印象は持たれないであろうとその辺は必要以上に気を回すのでありました。
 翌日の吉岡佳世の入院している病院へ向かう拙生の晴れがましい顔と云ったら、今思い出しても恥ずかしくなるくらいでありました。
「昨日発表のあった大学に、運良く合格しとったばい」
 拙生は吉岡佳世にあまり得意げな風に見えないように、努めてさらりと云うのでありました。
「本当、凄い!」
 吉岡佳世はそう云って口元に手を当てて喜んでくれるのでありました。
「井渕君おめでとう」
 彼女のお母さんもそう云って嬉しそうな顔をしてくれます。
「おまじないのおかげぞ、九割方は」
「そんなことないって、井渕君の実力だって」
 吉岡佳世がそんなことを云って拙生を心地よく照れさせてくれます。
(続)
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