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枯葉の髪飾りCⅩⅢ [枯葉の髪飾り 4 創作]

「あらあ、そがん気ば遣わんでもよかったとに」
 彼女のお母さんはそう云いながら、紙包みを受け取って拙生に一礼するのでありました。
「詰まらん物ばってん、ナボナて云う東京のお菓子です」
 それは帰りしな、東京駅の地下街の土産屋で買ったものでありました。
「これも、貰ったとよ」
 吉岡佳世が彼女のお母さんにそう云いながら、先程拙生が渡した写真立てを差し上げて見せるのでありました。
「なんか井渕君に、とんだ散財ばさせてしもうたごたるね。色々有難うね」
 彼女のお母さんは如何にも気の毒そうな顔をするのでありました。
「いやあ、今まで色々お世話になっとるとけんが、そがん云われると返って恐縮するです」
 拙生は頭を掻くのでありました。
「それでね、この写真立てに、井渕君の写真ば入れようとしたらさ、こっちの家族写真の方ば入れろて、井渕君の云わすと。井渕君の写真の方ば入れても、別によかよねえ」
 吉岡佳世がそうお母さんに確認のような、念押しのようなことを云うのでありました。
「そりゃ当り前たい」
「ねえ、ほら」
 吉岡佳世は「ねえ」でお母さんの方に、それから「ほら」で拙生の方に目を向けながら云うのでありました。
「いや、家族写真の方ば入れてもよかとぞて、オイは云うただけで・・・」
「そがん、井渕君の佳世へのお土産に、井渕君ば差し置いて、あたし達の写真が飾られるとはなんとなく変やろう。井渕君の写真ば入れる方が自然やろうし」
 彼女のお母さんがそう云うのでありましたが、そんな風に云われると、成程拙生の写真がそこに納まる方が道理の上では正しいような気がしてくるのでありました。しかしそれではなんとなく我が写真を飾って貰うために、拙生が態々この写真立てを買ってきたような意図せざる意図が匂うようで、それは如何にも驕慢な図に見えてしまうのではないでしょうか。まあ、どの写真を入れるか決めるのは、写真立ての所有権が吉岡佳世に移った以上彼女の専権事項であり、拙生の意見を差し挟める事柄ではないのでありますが、しかしやはり、なんとなく写真立てに納まった拙生の写真は、屹度居心地が悪いでありましょうし。取り敢えず一旦拙生の写真がそれに納まるとしても、その場を彼女の家族の方に譲ることは拙生としては何時なん時でも決して吝かではないのであります。
「やっぱりこれには、井渕君の写真ば入れよう」
 吉岡佳世がそう云いながら写真立ての裏の木の板を外して、公園の銀杏の木の横で畏まる拙生の写真をその中に丁寧に嵌めこむのでありました。
「さあて、そいぎんた、今日は帰ろうかね」
 拙生の写真が写真立てに納まったところで拙生はそう云うのでありました。
「東京から帰って来た早々、来てくれて有難う」
 吉岡佳世が写真立てを台の上に乗せてから云うのでありました。
(続)
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