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枯葉の髪飾りCⅩⅡ [枯葉の髪飾り 4 創作]

「ああ、そう云えばぞ」
 拙生は急に思い出したように云います。「世界史の入試で、どがんしても思い出せん漢字のあってね、胸のポケットに入れとった、ほら、ここで貰うたお前の写真に手ば当てて、一生懸命思い出そうてしたら、パッて頭の中でその漢字の閃いたことのあったぞ」
「へえ、写真に手ば当てたら?」
「そうそう、あれには吃驚した」
「ふうん、少しはあたしのおまじないの効果、あったとやろうか」
「そうね。充分効果はあったね」
「なんか、そがんこと聞いたら、ちょっと嬉しかね」
「助かったて思うて、指ば鳴らしそうになったぞ。あれは、云うたらお前のお陰ぞ。佐世保に帰ったら、絶対お礼ばせんばて思うたもんね」
 吉岡佳世は大きな目を見開いて嬉しそうな顔をするのでありました。
「その、お礼ばってん」
 拙生は続けるのでありました。「ほら、こがんとば買うてきた」
 手に持っていた四角い包みを拙生は彼女に手渡すのでありました。
「なん、これ?」
 吉岡佳世はその包みを受け取ると上下横とひっくり返しながら、包装紙を入念に観察するのでありました。「これ、開けてよかと?」
 拙生は頷くのでありました。吉岡佳世は丁寧に包装紙を留めた透明テープを剥がして、紙を破らないように気を遣いながら包みを開けます。
「あら、これ写真立て?」
「そう。お茶の水に在る、レモンて云う、結構有名らしか画材屋で買うてきた」
「有難う。じゃあこれには、井渕君の写真ば入れようっと」
 吉岡佳世はベッド脇の台の上から拙生の写真を取り上げようとするのでありました。
「いや、そっちの家族写真の方ば入れても、別によかとばい」
「なんで?」
「いや、なんとなく、オイが家族ば差し置いとるようで、申しわけなか気のするけん」
「そがんことないさ。この写真立ては、井渕君に貰ったとやからさ」
 そんなことを話している時に丁度病室のドアが開かれる音がして、彼女のお母さんが中に入って来るのでありました。
「あら、井渕君」
 彼女のお母さんは拙生をベッド脇に見つけて驚くのでありました。
「今日の昼頃帰ってきたけん、早速お邪魔したとです」
 拙生はそう云いながら頭を下げるのでありました。
「ああ、そうやったね。態々有難う、今日の内に来て貰うて」
「お土産ば買うて来たけん、渡さんばて思うてですね」
 拙生はもう一つ携えてきた包みを彼女のお母さんに差し出すのでありました。
(続)
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