枯葉の髪飾りLⅩ [枯葉の髪飾り 2 創作]
「そがんわけじゃなかし、この水筒に関係なく」
拙生は安田に云います。「元からオイは今日も、吉岡の家に見舞いに行く積りでおった」
「ああ、そうや、ふうん」
安田は顎を撫でながら、拙生への冷やかしが空振りしたことに拍子抜けしたような表情をしながら頷くのでありました。
坂下先生が教室に入ってきて朝のホームルームが始まります。
「今日は昨日の片づけの終わったら、三年生は勝手に帰ってよかことになっとるけん、終業のホームルームはせんからな」
坂下先生が生徒に云います。「だからて云うて途中で帰ってしまうなよ。ちゃんと片づけ終わったらクラス委員はオイに報告しに来い。点検してそれから解散にするけんね。そいまでは全員教室で待機しとること。櫓ば解体したら材料の竹は纏めて校門の脇に積んどけ。後で北川建設の人が取りに来らすけんね。」
北川建設と云うのは学校の近くにある建設会社で、毎年体育祭の後に出た櫓のための竹を引き取ってくれている会社でありました。
坂下先生はクラス名簿を開いて、その後クラス全体を見渡しながら続けます。
「今日は特に態々出席はとらんけど、休みは吉岡と大和田だけかね。他に欠席の者はおらんか? 休みの者は手ば挙げろ」
これは坂下先生の軽口でありましょうが、二、三笑い声は上がったものの特に大受けはしないのでありました。大和田が休みと聞いて、拙生の斜め前の席に座っている安田が拙生の方を振り返るのでありました。隅田の方を窺うと隅田も横目で拙生を見ます。
「大和田はなんでも転んで怪我ばして、顔の腫れて熱のあるけん休むて今朝学校に電話のあったとばってんが」
坂下先生はそう云いながら拙生と安田と隅田、それに島田の方に順番に目を遣るのでありました。「別に帰り際に見た時は、なんともなかったごたったばってんね」
坂下先生は拙生等に質問しているのか、それとも独り言を云っているのか判然としない云い方をするのでありました。
「隅田、お前学校ば出た後、大和田になんかあったか知っとるか?」
ほんのちょっと間をとって坂下先生は聞くのでありましたが、これははっきりとした隅田への質問であります。
「いや、学校ば出た後はすぐに別れたけん」
「ああ、そうか」
坂下先生は隅田の言葉を聞いた後に拙生と安田と島田をまたもや順番に見ます。「まあ、よか。兎に角そう云うことで、全員これからすぐに片づけにかかれ。くれぐれも怪我ばせんように気をつけて作業ばせろよ」
転んで怪我をしたと欠席理由を述べたと云うことでありますから、どうやら大和田は昨日のことを大袈裟に騒ぎ立てる積もりはないようであります。そう判断して拙生は大和田の件に関しては秘かに胸を撫でおろすのでありました。
(続)
拙生は安田に云います。「元からオイは今日も、吉岡の家に見舞いに行く積りでおった」
「ああ、そうや、ふうん」
安田は顎を撫でながら、拙生への冷やかしが空振りしたことに拍子抜けしたような表情をしながら頷くのでありました。
坂下先生が教室に入ってきて朝のホームルームが始まります。
「今日は昨日の片づけの終わったら、三年生は勝手に帰ってよかことになっとるけん、終業のホームルームはせんからな」
坂下先生が生徒に云います。「だからて云うて途中で帰ってしまうなよ。ちゃんと片づけ終わったらクラス委員はオイに報告しに来い。点検してそれから解散にするけんね。そいまでは全員教室で待機しとること。櫓ば解体したら材料の竹は纏めて校門の脇に積んどけ。後で北川建設の人が取りに来らすけんね。」
北川建設と云うのは学校の近くにある建設会社で、毎年体育祭の後に出た櫓のための竹を引き取ってくれている会社でありました。
坂下先生はクラス名簿を開いて、その後クラス全体を見渡しながら続けます。
「今日は特に態々出席はとらんけど、休みは吉岡と大和田だけかね。他に欠席の者はおらんか? 休みの者は手ば挙げろ」
これは坂下先生の軽口でありましょうが、二、三笑い声は上がったものの特に大受けはしないのでありました。大和田が休みと聞いて、拙生の斜め前の席に座っている安田が拙生の方を振り返るのでありました。隅田の方を窺うと隅田も横目で拙生を見ます。
「大和田はなんでも転んで怪我ばして、顔の腫れて熱のあるけん休むて今朝学校に電話のあったとばってんが」
坂下先生はそう云いながら拙生と安田と隅田、それに島田の方に順番に目を遣るのでありました。「別に帰り際に見た時は、なんともなかったごたったばってんね」
坂下先生は拙生等に質問しているのか、それとも独り言を云っているのか判然としない云い方をするのでありました。
「隅田、お前学校ば出た後、大和田になんかあったか知っとるか?」
ほんのちょっと間をとって坂下先生は聞くのでありましたが、これははっきりとした隅田への質問であります。
「いや、学校ば出た後はすぐに別れたけん」
「ああ、そうか」
坂下先生は隅田の言葉を聞いた後に拙生と安田と島田をまたもや順番に見ます。「まあ、よか。兎に角そう云うことで、全員これからすぐに片づけにかかれ。くれぐれも怪我ばせんように気をつけて作業ばせろよ」
転んで怪我をしたと欠席理由を述べたと云うことでありますから、どうやら大和田は昨日のことを大袈裟に騒ぎ立てる積もりはないようであります。そう判断して拙生は大和田の件に関しては秘かに胸を撫でおろすのでありました。
(続)
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